聞仲(封神演義(藤崎竜版))

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登場作品:藤崎竜版封神演義 分類:妖怪仙人、根性型 職業:殷の大師 立ち位置:中盤の仙界大戦編ボス 悪人度:C カッコよさ:S 強敵度:A 存在感:A 作品貢献度:B 演:松山鷹志(旧アニメ)、前野智昭(新アニメ) 週刊少年ジャンプで連載されていた藤崎竜が描いた封神演義。この作品は中国の伝奇小説が原盤であり、それを大幅にアレンジした安能務訳の「封神演義」を原案として更に藤崎竜がアレンジを加えた作品である。歴史、伝奇漫画というよりかは全体を通してSF作品と見れる作風が特徴である。 人気が出ても低迷したら打ち切る非情なジャンプシステムの渦中で、原作アリだったとはいえ円満な最終回を迎えており、なかなかの秀作だと思う。 ありがちな強さのインフレもうまく取り入れており、また、どうしても必然的に登場人物が多くなってしまう題材にもかかわらず、藤崎氏がうまく味付けした様々な『濃い』キャラクター達は見事に私を楽しませてくれた。 みんな良いキャラしてるんですよ。やたら濃い雲霄三姉妹とか、すぐやられちゃうけど記憶に残る十天君とか!味方側もそういうようなキャラばかりで、しかしそういったキャラクターでも(例え人気でも)惜しげも無く容赦なく封神されていくストーリーもなんだか儚くて良かったと思う。 さて、そんな濃いキャラクター達の中、私は今回紹介する聞仲(ぶんちゅう)が一番好きなキャラクターである。この人は悪役というよりどちらかというとライバル役というか、敵役と称すべき人かもしれないが、この図鑑にて取り上げたいと思ったので書かせていただく。 封神演義は中国の殷周革命の歴史の裏で起こっていた宝貝(パオペエ)という不思議な道具を駆使した仙人同士の戦いを描いた…というのが簡単なあらすじなのだが、聞仲はそんな中で殷の大師として殷王朝に忠誠を尽す主人公側と相容れぬ大きな壁のような敵役である。 作中通していわゆる強キャラという位置付けのキャラクターだ。 この作品のラスボスは紂王を誑かす妖狐・妲己(だっき)!と思ったら更に強大な敵がいた、その名は女媧(じょか)!…みたいな展開があって、この女媧が凄まじい強さを持ったラスボスなのだが、今回紹介する聞仲の役割は中盤の山というか表向きの『封神計画』の最終段階のボスキャラである。 この聞仲というキャラクターは、外道系や小物が数多い封神演義の敵キャラの中では基本的には正面から向かってくるタイプで、称するなら武人タイプと言ってもいい。 作中にて聞仲に並ぶ強キャラとしては申公豹(しんこうひょう)、妲己、趙公明(ちょうこうめい)がいるのだが、申公豹を除く全員にそれぞれ部下がいる。妲己の場合、妹達とお色気を生かして集めたであろう部下達。趙公明の場合はこれまた妹達と一癖ある部下達といった感じなのだが、おそらく聞仲の部下は彼を心底慕う霊獣黒麒麟と張奎夫妻と四聖といったメンバーで、癖がないように思う。家族の絆等無しで自分を慕って集まったメンバーを揃えているあたり、その人望と人格と本人の実力が表されているのだ。 しかし、もちろん私は聞仲のそういった『敵でありながら外道さ等無い武人っぷり』『とことん自分の意志を曲げない精神力』『単純な見た目のカッコ良さ』等の要素も好きなのだが、彼のどこが好きなのかを語るうえでどうしても外せない要素がある。 それは何か?それはズバリ聞仲の『強さ』である。 おそらくずっこけた方、「は?」と思った方もいるだろう。強さも何も敵役として君臨しているんだから雑魚なわけないじゃないか、と。 しかし、聞仲の強さというのは他とはちょっと違うベクトルで好きな要素なのだ。それはどういう事か?つまり、彼の生き様通り『とことん真っ直ぐな強さ』『真っ直ぐにただ強いキャラクター』だという事なのだ。 分かりにくいと思うので解説していくと、聞仲が作中で登場しだすのは単行本で言うと全23巻中の4巻くらいからだ。主人公の太公望(たいこうぼう)一行とはじめて対峙したのは聞仲の部下である四聖と戦っている最中であり、満を持して君臨した。そもそも聞仲はかつて妲己を殷から追い返した事があったり、封神のリストには最強と言われる申公豹の次に載っていたり(つまりは2番目に強いという事)等最初からかなり強いキャラクターだという事は約束されていた。 聞仲はあっという間に太公望一行を全滅させた(何とか逃げ延びる事は出来た)のだが、彼の使う技(というか宝貝)は禁鞭という『数キロ先の敵も打ち据えるというシンプルな技』であった。部下の四聖ですら水を操ったり大地を操ったり光線を出す機械だったり凄いミサイルみたいな宝貝だったり等いかにも凄そうな連中だったのだが、聞仲はこのシンプルな技のみで太公望達を蹴散らしたわけだ。単なる鞭を振るい、バシバシ打つ技…だが、誰も手も足も出せずに全く歯が立たなかったのである。 私は正直、申公豹が雷を自在に操る事と妲己が凄まじい洗脳技を駆使していた事からどんな凄い奴なんだろうと聞仲に期待していたのだが、使う技はちょっぴり地味な鞭だった。なぁんだ…という風に思ったのだが、驚く事にこの聞仲という男…『最後までこれだけ』の男だったのである! 太公望達が聞仲と再び戦う事になったのは、先述の通り『仙界大戦編』なのだが、彼が戦場に現れた時というのはストーリー的にはもう大詰めという段階だった。太公望側の『崑崙山』と、聞仲側の『金鰲島』の二つの仙道が相食む戦いは互いに全滅に近い損害を被っていたのだ。実はそれは殷を守ろうとする聞仲が計画していた事だったのだが、金鰲島の強者軍団たる十天君も全滅しているのでかなり追い詰められている。 そして聞仲は太公望の作戦によって崑崙十二仙(崑崙山の強者12人)に包囲されてしまう。この状況に私は聞仲には何か隠し玉があると思ったのだ。理由として、傍観者である申公豹が聞仲と普賢真人の対決の際にどちらが勝つかと問われ『確実に聞仲です』と自信満々に言い放った事がひとつ。そして先述の通り禁鞭があまりに地味な為に何か技があるんじゃないかと勘繰った事。そしてもうひとつ、聞仲は位置的には妖怪仙人にあたる為、『変身』という手段が残されていると考えた事が要因だった。 考えてみると、聞仲と近い実力者である趙公明やラスボスである女媧すらも『変身』しているのだ。妖怪仙人らしい切り札と言えるだろう。 ところが…聞仲にはいわゆる切り札が無かったのである。最初に出てきた時と同じように、ただ鞭を振り回すだけだったのだ。 それなのに誰も正攻法では勝てないのだ。崑崙十二仙なんかあっという間にまとめて封神されてしまう。単に鞭を振り回すだけなのに…本当に誰も歯が立たなかったのである。 最初は正直禁鞭に不満があった私だが、おそらくここで聞仲が何らかの切り札を使っていたなら冷めてしまっていた可能性がある。なんというか『ひとつの技をとことん極めた』凄味というのか、重みというのか… 封神演義には数多くの宝貝が登場するわけだが、自然現象を操ったり空間をつくってアドバンテージを得て戦うヤツ等結構チートみたいな宝貝も出てくる。そんな中で一見大した事なさそうな『鞭を振る』という技を誰も破る事が出来ない。なんというか私はその聞仲の理論というかツッコミどころを完全無視した強さに惚れ込んでしまったのである。 しかし強いとはいえ聞仲は次々と敵を打ち倒していく中、普賢真人の自爆や重力を操る宝貝を操る元始天尊の重力千倍等を喰らい、さすがにボロボロになっていく。でも血だらけになりながらも次々と突破していくのだ。 悪役図鑑でこんな事書くのもなんだが、なんか根性のある主人公キャラみたいな立ち回りで非常にカッコイイ!聞仲は敵役にもかかわらず、凄まじい根性キャラなのである。 普賢真人との対決の際、普賢真人は宝貝で斥力を発生させて聞仲の鞭を防ぐのだが簡単に突破されてしまう。しかしこれがなぜ破られたのか作中において説明されない。そして元始天尊の重力千倍も腕が折れながらも突破していくのだが、これまたなぜ破れたのか説明されないのだ。 なぜ破れたのか。もうこれは聞仲の『根性』に破られたとしか言いようがない。聞仲の強固なブレない意志が戦闘面においてプラスに働いているとしか言いようがなく、わりと理論的な流れで展開していきやすい封神演義の戦闘において、この『理論なんぞクソ喰らえ』と言わんばかりの聞仲の打撃でぶつかるっぷりは良い意味で世界観から離れており、シンプルに感心してしまった。 そして私が聞仲で好きな要素がもうひとつある。聞仲は最終的には敗れ、封神されるわけだが、なんと形的には『消耗戦』で負けてしまう。 基本的に圧倒的に格上の相手と戦う場合、そんな強キャラに持久戦や消耗戦を挑まれたら主人公側としてはどうしようもない。なので奇襲、奇策による瞬発力を生かして打ち勝つ!というのがベターな勝利の方程式ではないかと思うのだが(この作品の場合も基本的には太公望はそういう策をとるタイプ)、聞仲の場合は普賢真人+太公望→それプラス崑崙十二仙プラスアルファ→元始天尊→黄飛虎(王天君の紅水陣の中で溶けながら戦う)→最後に再び太公望という順で戦って、最後に戦う太公望に辿り着くまで満身創痍になりながらことごとく敵を撃破していくのである。 なんか主人公っぽくないですかこの人?(笑) そして太公望との戦い。ボロボロで、親友の黄飛虎を失った事から精神的にもダメージを受けた状態の聞仲の自慢の鞭もまともに当たらなくなってしまっている。 なんと太公望はこの時、自らの宝貝『打神鞭』を捨て、聞仲にワイルドな殴り合いを挑んでいくのだ。太公望は非常に冷静なキャラなのだが、そんな彼にわざわざ殴り合いを選ばせたという部分も聞仲の好きな要素のひとつと言える。 聞仲はしばらく太公望と殴りあった後、自らに込み上げた気持ちと殷についてへのブレーキをとっぱらった旨を伝え、自ら崖へ身を投げていく。この時の流れと、聞仲の魂魄が天へ封神されていく様子は素直に美しいと思った。 こういったただ一心不乱に真っ直ぐに強い、そんな武人が儚くも美しく散っていく物語というものは素晴らしいと思います。 9c1cf22a-b0c4-4e22-a55c-8e5dde6c6777
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