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そんなある日。 今日はダーツのごとく小さなナイフを、ジャグリングしながら死刑囚に向かって投げていたときだ。僕の身体は、急に動かなくなった。 まだ、その日のショーは中盤に差し掛かったところだった。 呻き声を上げながら、虚ろに見開かれた罪人の目が僕を捉えていた。 会場中が異変に気付くと、彼らは先ほどまで上げていた狂気に満ちた声とは打って変わって、酷い怒号を浴びせだす。 慌てた団員は急遽代役を選び、僕と同じ行為をそいつにやらせた。 しかし、それはひどいものだった。 なんせ彼らは、ただの一度も、自分の手を汚してきていなかったからだ。 ホワイトタイガーも、僕も。汚れ役はいつだって、人間以外の仕事だった。 震える腕は、いつもなら軽々やってのけるジャグリングを掴み損ねて腕を切り、指先を落とした。人が傷つけられる姿を観て喜ぶはずの観客たちが、あきれ果てて席を立ち始める。 もはや、指先まで落とした団員はピエロにすらなり切れていなかった。ピエロはいつだって、笑いものでなければならない。そう教えたのも、あんたたちだったのに。 恐怖に委縮して、自分で自分を痛めつけたせいで、使い物にならないという点で彼はもうすでに機能を停止した僕と同じだった。ただ違うのは、彼は狂ったように変な声を静かに漏らしながら、よだれやらおしっこやら、液という液を垂らしていたことくらい。 そんなことも、この状況では些末な問題のようだった。 その後、それまで完璧で凄惨なショーがウリだった地下サーカスは、見事なまでに客足が減り、廃業になるまでに時間は掛からなかった。 これが、取り返しのつかないミスを犯した笑いものたちの末路だ。 道化師にはお似合いだろう。
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