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昼休みで賑わう教室で、後ろのドアから中に入ってきた人物を見て、智紘は顔を上げた。
「真人」
僅かに視線を向けた真人が、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
「おはよーさん。悟、風邪なんだって?大丈夫なのか?」
隣に座っていた祐一郎が、心配そうに眉を寄せた。
「・・・・ああ。たいしたことないだろ」
少し視線をずらして、真人が髪をかきあげた。
その仕草におもわず眉を寄せた智紘の横で、祐一郎が安堵のため息を吐いた。
「悟が学校休むなんて、珍しいもんなー。すごく驚いたよ。 悟の姿見かけないからって一日中、他のクラスのヤツらに呼び止められまくったんだぜ?なあ?智紘」
「え?ああ、うん」
「アイツ、顔だけは広いのな。友だち多すぎ」
ケラケラと笑う祐一郎に、真人は小さな声で「そうだな」と、呟いた。
「明日と明後日、休みだし、寝てりゃ治るだろ」
それだけいい残して、真人は、自分の席へと向かった。
その後姿に、妙な違和感を感じる。
微かに首を傾げた智紘の横で、祐一郎が席を立った。
「大丈夫なら安心した。ちょっと隣のクラスいってくるよ。悟のこと心配してたヤツいたから」
「わかった」
教室を出ていく祐一郎を見送って、智紘は真人の席に向かった。
椅子に腰掛け、一点を見つめている真人。
不機嫌そうな、妙なオーラが漂っている。
考え込んでいるような、それでいて、苛立っている感じすらする。
その雰囲気に、なぜか胸騒ぎがした。
「・・・・悟、風邪?」
横に立って、小さく問いかけても、真人の視線は動かない。
しばしの間を置いて、真人がぼそりと呟いた。
「・・・・風邪じゃねえよ、あんなの」
「え?」
「クソッ!」
途端に苛立ったかのように、真人が足で勢いよく机を蹴り上げた。
ドカッという音に、周囲は静まり返って、クラス中の視線が真人に集中する。
それでも真人はそんなもの気にも留めず、そのまま席を立ち上がった。
制御できないかのように怒りを露わにした真人の態度に、嫌な予感がした。
ドアのところにたむろっていた男子生徒たちが、真人のただならぬ雰囲気に、自然と道を開ける。
その影から、ひょっこりと顔をだした人物を見て、智紘は首を傾げた。
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