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「いや、大丈夫です。よく見てなくてすいませ・・・・」
涙目になりながら顔を上げて、おもわず言葉に詰まった。
相手も、自分を見て、少し驚いたように眼を見開く。
そしてすぐに、呆れたように小さく息を吐いた。
「またおまえか・・・・」
「アンタ・・・・ッ!」
折角忘れかけていたのに。
昨日の今日でまた会うなんて、本当についてない。
睨みつけたってなんにもならないのはわかっているけど、どうしても眼が喧嘩を売ってしまう。
そんなことなど気にも留めずに、黒沢は悟の手に持っている本へ視線を移した。
「ガキの読む本だな」
表情一つ変えないいい方が、逆に癪に障る。
ムッとしたのは当然で。
それでも拳を握り締めてなんとか言葉を呑み込んだ。
「アンタには関係ないだろ」
フンと鼻を鳴らして、くるりと方向転換。
嫌な気分になりたくないなら、係わらないほうがいい。
マンガを読んで、気分をよくして、智紘に最高の笑顔を見てもらうんだ。
そう、今日の自分は忙しい。
さっさと歩き出そうと足を踏み出すと、途端に肩を掴まれた。
「ちょっと待て」
文句をいいそうになった口をなんとか耐えさせて、眉間に皺いっぱいにした顔のまま、黒沢の顔を見上げた。
「なに?」
「おまえ、智紘の友だちなんだよな?」
「?・・・・そうだけど」
ちょっと考えるように眉を寄せた黒沢を見て、おもわず首を傾げた。
いったいなんだっていうんだろう。
自分と智紘との関係に疑問を抱いているような黒沢の態度。
昨日も、そんな感じだった。
しばし考えたあと、黒沢が悟の肩から手を離して呟いた。
「ちょっとつきあえ」
「は?・・・・って、ちょっと!」
ひょいと、持っていた本を攫われ、驚いて声を上げるが、黒沢は気にもせず、当たり前のようにレジへと向かった。
なにがなんだかわからずに立ち尽くす自分に、黒沢は会計済みの紙袋に入った本を押しつけ、無言で出口を顎でしゃくった。
「こい」と、いうことなんだろう。
スタスタと歩き出す黒沢の後姿を見つめながら、意味もわからず、悟は紙袋を握り締めた。
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