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連れてこられたのは、高層マンション。
終始無言で黒沢は玄関を開け、入れ、と眼で合図をする。
ごくりと、唾を飲み、悟は促されるままその中に足を踏み入れた。
あまり家具のない部屋は想像以上に広く感じて、 シンプルなモノトーンの雰囲気は黒沢の冷たいイメージと驚くほどマッチしている。
性格って好みとも関係あるのかな、などと意味もないことを考えている間に、 黒沢はスーツの上着を脱ぎ始めている。
「し、仕事は・・・・?」
「終わり」
ネクタイを解きながら、黒沢は冷蔵庫から缶ビールを取り出す。
それをごくごくと飲みだすその姿に、なんだか大人の男の色香を感じた。
だらしなく開いたシャツの襟元とか、上下する喉とか、色っぽい男っていうのは、 こういう人のことをいうのかもしれない。
缶から口元を離して、黒沢が眼だけでこっちを見た。
その流し眼に、びくりと、肩が震えた。
「いつまで突っ立ってんだ。目障りだ」
性格っていうのはどうしてこうも顔とマッチしないんだろう。
ムッと睨みつけても、黒沢には効果はないらしく、気にせず自分のペースを保つ。
缶ビール片手にゆったりとしたソファーに腰を下ろした黒沢に、さすがの自分も声を張り上げた。
「おい!」
髪をかきあげながら、黒沢が視線を向ける。
「なんなんだよ!こんなとこに連れてきて!いいたいことがあるならはっきりいえよ!」
すぐに結果を求めたがる短気な性格。
それは自分でも悪いことだとは思うけど、この場合は、悪くないだろう。
意味もわからず部屋に連れてこられて、怒るのは当然だと思う。
マンガを買ってもらったくらいで人に懐くほど、自分だって単純じゃないんだ。
くつろぎはじめている黒沢を思い切り睨みつける。
一度、眼を伏せた黒沢が、眼鏡を外し、それをテーブルにそっと置いた。
そして、もう一度、悟に視線を向けた。
どきりとした。
昨日の眼と似ている。
冷たく突き刺さるような、視線。
自分が智紘の友だちだと知ったあと、自分に注がれた視線。
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