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黒沢は、視線を離さぬまま、こちらに向かって手招きをした。
正確には、「おいで」というより、「こい」って感じの手の動き。
いつもなら相手が誰であっても文句のひとつでもいってしまうような行為ではあるけれど、 いまはその言葉すらでてこない。
一瞬躊躇うが、それでも、ゆっくりと足を進めた。
ソファーの前まで進んで、足を止めた。
さっきまで上にあった視線が、いまは自分を見上げている。
なんなんだろう、この空気。
その雰囲気に耐えられず、口を開きかけた瞬間、勢いよく腕を掴まれた。
「―――ッ!!」
手に持っていた紙袋がガサッという音をたてて、床に転がった。
突然のできごと。
身体が反転して、ソファーに強く叩きつけられた。
柔らかいソファーのおかげで痛みはないが、衝撃はある。
息が詰まった。
しかしすぐに自分の上に圧し掛かってくる重みと、肩を押さえつけてくる腕の力に、驚いて眼を見開いた。
「な、なに・・・・?」
「おまえは、なんで智紘と友だちをやってるんだ?」
「え・・・・」
なぜ?って、どういうこと?
意味のわからないその質問の意図と、この状況で、自分の頭はパニック寸前だ。
じたばたとこの状態から逃れようともがくが、黒沢にその動きを簡単に封じられてしまう。
同じ男なのに、力の差は歴然。
悔しさと情けなさで、眼に涙が滲んだ。
「なんなんだよ、アンタ!もう・・・・離せよッ!!」
「質問に答えろよ」
「なんだってんだよ・・・・ッ!!」
黒沢の眼は、妙に落ち着いている。
静けさと、冷たさを兼ね備えたような、そんな刺さるような視線。
そんな眼でじっと見つめられて、なぜだか、本当に泣きたくなった。
「・・・・好きだからだよ!」
「え?」
黒沢の眼が微かに揺れた。
その眼を睨みつけて、悟は口を開いた。
「智紘のことが好きだから一緒にいるんだ!それ以外の理由なんてあるかよ!!友だちなんだから当然だろう!?」
当たり前だ。
はじめて会ったときから、智紘のことが好きだった。
もちろん友だちとして。
一緒にいるのがたのしかった。
だから、側にいる。
そんなの当たり前だ。
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