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重い身体を引きずって、やっとの思いで、家の門に手をかけた。
どこが痛いかなんてわからないくらい、身体中がギシギシと痛む。
腫れた唇も、痛い。
倒れこみそうなくらいの朦朧とした意識の中で、自分がどうやってここまで辿り着いたのか、よく覚えていない。
気を失って数時間後、ぼんやりと眼を開けた自分の眼の前に、黒沢がいた。
少し身動きしただけで、身体に激痛が走って、顔を顰めた自分に、黒沢が手を差し出してきた。
たぶん、起きるのを手伝ってくれようとしたんだと思う。
けど、その手を振り解いて、一言も発せずに、そのままあの部屋を飛び出した。
そこまでは、覚えている。
滲んできた涙を拭って、隣の家の明かりを眺めた。
きっと、今日も真人は待っていてくれている。
自分の分の夕食を当たり前のようにつくって、自分の帰りを待っていてくれている。
それでも・・・・。
鍵を取り出し、玄関を開ける。
暗くて人気のない家が、こんなにもありがたいと思ったのは、今日がはじめてだ。
本当は寂しくて、寂しくて、ひとりでこの家にいるのが恐かった。
だけど、いまは・・・・。
ひとりになりたい。
壁をつたって二階の部屋へと向かった。
服を脱ぎ捨てて、倒れこむように、ベッドに潜り込んだ。
それと同時に、ドッと涙が溢れ出た。
さっきあんなに泣いたのに、どんどんと涙は溢れ、枕を濡らす。
「う・・・・」
痛いのは身体だけじゃない。
心も、痛い。
痛くて、痛くて、張り裂けそうだ。
なんでだろう。
なんで、こんなに悲しいんだろう。
自分はバカだから、わからない。
わからないから、恐い。
声を噛み殺して泣いていると、脱ぎ捨てた制服のポケットで、携帯が鳴り出した。
この着メロは真人だ。
その音を聴いて、さらに涙が溢れた。
数回のコールで切れた電話が、ほどなくして、また鳴り出す。
心配をかけているんだと思う。
こんなふうに、真人に連絡を入れなかったことはいままでなかったから。
その音もしばらくして、止まり、再び静寂が訪れた。
しかし、数分後には、玄関を開ける音が聞こえた。
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