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薄く開いた眼に、窓から差す光が眩しい。
何度か瞬きをして、ゆっくりと視線を廻らせる。
いつもと同じ、自分の部屋。
出しっぱなしのゲームソフトや脱ぎっぱなしの服が散乱していて、 とてもじゃないが、綺麗とはいえない自分の部屋。
いつもと同じ風景。
いつもと変わらない、朝。
すべてが夢だったのかな。
昨日あったことは、すべて夢の中のできごとで、 ただの幻だったのかな。
そうすれば、すぐに忘れられていつもの日常に戻れる。
「い・・・・ッ」
しかし、身体を起こしてみて、気づいた。
下半身から響く、鈍い痛み。
だるい身体。
起き上がることもできずに、自分の身体はそのままベッドに倒れこんだ。
夢じゃなくて、紛れもない現実。
それを目の当たりにして、おもわず涙が滲んだ。
情けなさと、悔しさ。
同じ男なのに、自分は黒沢に適わなかった。
もちろん、力の差もあるけど、実際はそれだけじゃない。
逃げられなかったのは、それだけじゃない。
抵抗しながらも、自分は・・・・。
黒沢の黒い瞳から、眼が逸らせなかった。
「起きたのか?」
突然の声に、悟は顔を覆っていた手を勢いよく離した。
洗面器を抱えた相変わらずの仏頂面が、ゆっくりと部屋の中に入ってくるのが見えた。
「真人・・・・?」
「ああ」
小さく返事をして、真人がベッドサイドに腰を下ろす。
眼を瞬かせる自分を見て、その額に、大きな手を当てた。
「結構高いな・・・・」
「え?」
「熱」
どうやら発熱らしい。
身体がだるいのは、そのせいもあるんだろうけど。
自分はそれが風邪じゃないのを知っている。
なにもいうことができなくて、おもわず黙りこくってしまう。
そんな自分の様子にも、真人はなにもいわない。
なにもいわずに、額に乗せた手をゆっくりと滑らせた。
眼の上に、真人の手の平が被さる。
黒沢の手とは違う、あたたかい手。
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