不機嫌な太陽

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「蛍さん?」  視線があうと、蛍はにこりと笑って、小さくて招きをした。 「どうしたの?」  近づいて微笑むと、蛍は廊下を歩いていく真人の後姿を見ながら、僅かに顔を顰めた。 「ちょっと話したいことがあってね。というか、なに?アイツ。感じワル」 「気にしないで。それで、話って?」  予想どおりの蛍の感想におもわず苦笑を洩らして訊ねると、蛍は思い出したかのように口を開いた。 「今日、あの元気な少年きてる?」 「悟のこと?」 「そう、悟くん」 「いや・・・・今日は休み」  小さく肩を竦めると、蛍は僅かに眉を寄せながら、「やっぱり・・・・」と、呟いた。  首を傾げた智紘を見て、蛍は言葉を繋げた。 「わたし、昨夜彼を見たんだけど・・・・」 「え?悟を?」 「うん・・・・ちょっと様子がおかしかったから、気になって・・・・」  嫌な予感。  妙な感覚に、胸が疼いた。  そのまま廊下の先に視線を送る。 「真人!」  智紘の声に、真人が足を止めて、ゆっくりと振り返った。  智紘の表情を見て、真人が僅かに眉を寄せる。  立ち止まった真人を確認して、智紘は再び蛍に視線を向けた。 「ごめん。それで、様子って?」 「ああ、うん。なんか具合悪そうっていうか・・・・どこか怪我でもしてたのかなって」 「どうして?」 「身体、引きずるようにして歩いてたから・・・・すごくつらそうで・・・・声かけようと思ったんだけど、 なんだかそんな雰囲気じゃなくて、逆に話しかけられなかったわ」  そういいながら、蛍は申し訳なさそうに肩を竦めた。 「・・・・そう、わかった」 「え?」 「いや、ありがとう、蛍さん」  にこりと微笑んだ智紘に、蛍は首を傾げながらも笑みを返した。  壁に寄りかかって、こちらの様子を眺めている真人。  視線がぶつかって、真人の態度の理由がわかったような気がした。  不安は現実になるのだろうか。  智紘は絡まる視線を解くことなく、そちらに足を向けた。
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