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「いてて・・・・」
痛みに顔を顰めながら、厚手のパーカーに袖を通す。
ウジウジと考えていたって、なにもはじまらない。
いつでもどこでも、考える前に行動を。
無鉄砲といわれるけど、それでも、自分にはそっちのほうが性に合っている。
気になることがあるなら、たしかめないと。
だって、そうなんだ。
自分がどんなに理解しようとしても、黒沢の奥底にある内面なんて、見えてこない。
見えないものなら、見てみたい。
昨日の今日で、こんなことを思うなんてどうかしているのはわかってる。
それでも、なんだか、気になるんだ。
「よし」
痛みはまだ残っているけど、きのうほどじゃない。
おぼつかない足で階段を降りて、踏み潰したスニーカーを引っ掛けて、玄関を開けた。
開けて、おもわず、息を呑んだ。
というか、あるはずもないものに、驚きのあまり一歩後ずさった。
「どこにいく気だ?」
同じように驚いたように眼を見開いた真人が、すぐに呆れたように眉を顰めた。
隣にいた智紘も眼を丸くしている。
どうしよう。
口を開くこともできずに、嫌な汗が流れるのを感じた。
不意に伸びてきた手が、額に触れる。
「熱、まだあるじゃねえか。そんな状態でなにしようってんだ?」
「いや・・・・その・・・・」
「イイワケはいらねえ」
ぴしゃりといい放って、真人がずいずいと身体をこちらに進めてくる。
「ちょっ!真人!」
「煩え。大人しく寝てろ」
「だって!」
「だってもクソもねえ。ぶっ倒れてえのか」
ギロリと睨まれて、肩を竦めた。
反論などできるはずもない。
いつもならぎゃあぎゃあと煩い口が、自然と言葉を失った。
真人は小さくため息を吐いて、俯いたままの悟の身体を抱え上げた。
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