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結局そのままベッドに押し込まれて、当たり前のように、冷たいタオルを額に乗せられる。
すべてが水の泡になったような気がして、悟は深いため息を吐いた。
その姿を見て、ベッドの端に腰掛けた智紘が小さく苦笑を洩らした。
「しかたないね。諦めたほうがいいよ」
さらりといわれて、おもわず唇を尖らした。
空気の入れ替えにと、窓を開けていた真人が、さらに深いため息を吐いて自分を見る。
「ったく、おまえは・・・・こういうときくらい大人しくしてるってこともできねえのか・・・・」
「だって・・・・」
たしかめようと思ったんだ。
黒沢のこと。
黒沢が思っていること。
また会ったところで、どうにもならないことかもしれないけど。
それでも、会いたいと思った。
もう一度、黒沢の眼を見たいと思った。
あの、瞳の奥の色を、もう一度、たしかめたいと思ったんだ。
「まったく、早退してきて正解だったな。とりあえず、今日は大人しくしてろ」
「・・・・」
それだけいうと、真人は智紘に視線を送り、そのまま部屋を出ていった。
「・・・・なんで早退してきたの?」
そういうと、智紘がゆっくりと視線を向けた。
「悟のことが気になったから」
「え?」
どきんと、心臓が鳴った。
じっと見つめてくる智紘の視線が痛い。
表情を変えぬまま、智紘がさらに口を開いた。
「悟、どこにいこうとしてたの?」
「・・・・」
いえるわけない。
黒沢は智紘のことを知っていた。
当然、智紘も黒沢のことを知っているはずだ。
いえるわけない。
身体が、微かに震えた。
「昨日、どこにいってた?」
さらに強く追求してくる智紘から、堪らず視線を逸らした。
顔が強張るのがわかる。
なんていえばいい?
なんていえば、うまく誤魔化せるだろうか。
普段から、嘘がつけないバカ正直な性格。
キュッと唇を噛み締めた自分を見て、智紘が僅かに顔を歪めた。
小さく息を吐いて、前に乗り出してくる。
そして、強く腕を引かれた。
拍子に、タオルが額から落ちる。
そんなことは気にも留めず、智紘が自分の眼を覗き込んでくる。
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