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「じゃあ、単刀直入に訊くよ」
そう呟いて、智紘が一瞬眼を伏せ、すぐに顔を上げた。
「誰にヤラれた?」
「!」
おもわず腕を振り解いた。
それには気にかけた様子もなく、智紘は僅かに顔を歪めた。
気づかれている。
知られてしまっている。
自然と、眼に涙が溢れた。
「悟・・・・」
「・・・・なんで・・・・」
やっとの思いで吐き出した声は、自分の声とは思えないほど、か細い声。
「・・・・ごめん。もしかしたら、って思って・・・・だから気になった」
「・・・・」
俯いた自分の頭を、智紘がやさしく撫でる。
あたたかい手だ。
「悟が泣いていると思ったら、いてもたってもいられなかった。 だから、真人に頼んで、ここにきたんだ。俺、悟には泣いてほしくない。 笑っていてほしい。悟の悲しい顔は、見たくないから・・・・だから・・・・」
そういって、智紘は、悲しそうに眼を伏せた。
笑っていてほしい。
そう思ってくれるから。
だから、笑いたい。
自分が笑えば、智紘も綺麗な顔で笑ってくれる。
俯いてなんて、ほしくない。
震える手を伸ばすと、智紘はその手を握った。
真人と同じくらい、あたたかい手。
「・・・・真人もつらそうだった」
「え?」
「悟もわかっていると思うけど、真人は気づいてるよ。だけど、自分にはいい難いだろうから訊けないって・・・・」
「・・・・」
「だけど、このまま黙ってみているわけにはいかないんだ。真人も、俺も」
「え・・・・」
「悟の痛み、俺らにも分けて」
「・・・・」
「全部、知りたい」
智紘の指先が、目尻に触れた。
溢れる涙を拭うあたたかい指に、そっと眼を伏せた。
「本当に許せないんだ・・・・」
「え・・・・?」
「悟を傷つけた相手を」
「智紘・・・・」
「俺も真人も、許せない」
「・・・・」
そういって、智紘は視線を上げた。
絡まる綺麗な瞳は、確実に自分を射抜いた。
「誰か教えて」
強く手を握って、智紘が自分を真っ直ぐに見据えた。
すぐに、勢いよく首を振る。
それを見て、智紘が眉を寄せた。
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