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「なんなんだよ、アンタ!」
持ち前の勝気で負けず嫌いな性格は、こういうときに黙っていてはくれない。
握った拳でコンクリートの壁をドンッと叩いて、眼の前で悠長に煙草を咥えだした男を、悟は先ほどよりも鋭い眼で睨み上げた。
「人が折角お礼いおうとしてるのに!嫌味ばっかりいいやがって!」
「嫌味いわれるようなバカをしているのは、おまえだろ」
「なに!」
「自分の身も満足に守れないようなヤツが偉そうなこというな。ガキが」
「ガキだと!?」
表情一つ変えず淡々と吐き出される言葉に、カッと一瞬で頭に血が上った。
なおも食い下がろうと口を開きかけた瞬間、「黒沢!」と、大通りから声が響いた。
「黒沢、どうしたんだよ?いきなり走り出して。探したぞ」
突然ひょっこりと現れた男が、小走りでこちらに近づいてくる。
男の知り合いだろうか。
黒沢と呼ばれた眼の前の男が、煙草の煙を吐き出しながら、ゆっくりと視線を上げた。
「・・・・麻生か」
「なにしてるんだ?こんなところで・・・・あれ?」
現れた男が、自分の存在に気づいて、小さく首を傾げた。
あれ?と、思ったのは自分も同じで。
黒沢と呼ばれた男と同じようにスーツ姿で、いかにも仕事ができる風なこの男。
少し長めの薄っすらとした茶髪と、この整った顔には見覚えがあった。
「俺の記憶に間違いがなければ・・・・トモの友だちだよね?」
「えっと、康平・・・・さん?」
そうそう、と、康平はにこりと笑った。
突然の康平の登場で驚いて眼をパチパチと瞬かせていると、隣から康平よりトーンの低い落ち着いた声が聞こえた。
「・・・・知り合いか?」
「トモの友だちだよ」
「智紘の?」
康平のその言葉に、黒沢は驚いたように眼を見開いて自分を見た。
どうやら智紘とも知り合いらしい。
康平絡みの知り合いなのだろうと思うけど、こんな嫌味な男と智紘が知り合いだなんて、なんとも納得がいかない。
黒沢も黒沢で、自分が智紘の友だちだということが気になるのか、物珍しそうな視線をジロジロと向けてくる。
いったいなんなんだ、と、おもわず眉を寄せた自分の顔を、康平が穏やかな笑みを浮かべ覗き込んできた。
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