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「俺、ハンバーグが食べたかった・・・・」
小鉢に入った肉じゃがを箸でつつきながらぼそりと呟くと、眼の前の真人が、顔を顰めた。
「おまえのオコチャマ味覚につきあってたらキリがねえんだよ。黙って食え」
「・・・・ふん」
べつに肉じゃがが嫌いなわけじゃない。
今日の夕食は和食メインで、魚の煮つけにだしまき卵に、ほうれん草の胡麻和えに・・・・。
たぶん、いつもより手が込んでるんだろうな、とわかるほど、すべておいしい。
「・・・・昌兄は?」
「飲み会」
「そお・・・・」
沈黙。
なんだか、いつもより静かな食卓になってしまった。
真人はもともと無口なほうだから、食事のときはさらに喋らないし、 智紘は聞き手に回るほうが多いから、自分から喋りだすことはあまりない。
いつもなら率先して喋りだす自分が口を開かないものだから、 いまはただ、テレビのバラエティー番組の司会者の賑やかな声だけが響く。
ただ黙々と食べるだけの食事。
そんな妙な空気の中、沈黙を破ったのは、真人の深いため息だった。
なんなんだ、と、顔を上げると、真人はゆっくりとした動作で箸を置いて、真っ直ぐに自分に視線を向けてきた。
「・・・・で?」
「は・・・・?」
咄嗟に問いかけられておもわずとぼけた返事を返すと、真人は微かに眉を寄せた。
「は?じゃねえよ。なにがあった?って訊いてんだよ」
呆れたように真人は、また小さく息を吐いた。
視線を下げると、真人の食器はすでに空になっていた。
智紘も、ほぼ食べ終えている。
いつも早食いのはずの自分のお皿だけが、まだ半分以上料理が残っている状態。
どうやら考え事をしている間に、遅れをとってしまっていたらしい。
「おい、悟」
「・・・・なに」
「黙ってちゃわかんねえだろ。さっさとなにがあったかいえっつってんだよ」
さっきは黙れっていったくせに・・・・。
ムッとして口を尖らせると、真人はさらに顔を顰めた。
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