18人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「こんな辺境の地の研究所にまで逃げてきた『彼女』の元にも、バステトを処理するようにと政府がきた。
『彼女』は泣きながら、政府の役人の前でバステトに薬を打った。僕もそれを見ていたよ。いつも僕に唸り声ばかりあげていたバステトが急に静かになるのを」
「酷い……」
彼女は守ろうとするみたいにバステトの体に腕をまわす。
「でも、『彼女』は葉月だからね。君と同じで意味のないルールがとても嫌いだった」
「私と同じ」
「『彼女』は咄嗟に薬をすりかえたんだ。元々そうなることも頭の中では考えていたのかもしれない。
バステトを仮死状態にして政府には殺したと見せかけた。でも、彼らが帰るとすぐに蘇生させ、そしてバステトに何か話をしていた」
「本当に分かっていたのかな」
「どうだろう。でも、バステトは目覚めたら君に会いに来たから、分かっていたのかもしれないね。
話が終わったあと『彼女』はバステトに自身が開発をしていたコールドスリープの装置に入るように言った。バステトは言われた通りその中に入り、冬眠に入ったんだ」
「『彼女』はそれからどうしたの?」
葉月の表情が一段と強張ったように思える。
「コールドスリープの装置はまだ実験段階だった。確実に彼を目覚めさせる為には科学の進歩がどうしても必要だったんだ。
だから、『彼女』は当時、より技術の高かったクライオニクスで自分の脳、卵子、それから皮膚などを冷凍保存させた」
「それって……まさか」
「そう、僕がやったんだよ。『彼女』が望んだとおりに。それから、僕も『彼女』がセットした時間に合わせ眠りについた。
そして、15年前やっと目覚めたんだ。僕は今の進歩した科学を4年かけて勉強し、それから『彼女』に言われた通り、葉月……君たちを育てはじめた」
最初のコメントを投稿しよう!