狙撃手

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強く、冷たい風が防寒戦闘服を貫き、肌へと突き刺さった。 11月終わりの夜、しかも高さ15メートルを超える電波塔の上ともなると、地上とは比べ物にならないほどの強風が吹く。 雪こそ降っていなかったが、気温は5度以下、体感温度に至っては軽く氷点下にも達しているだろう。内衣には使い捨てカイロをいくつも張り付けているが、ないよりもましといった程度の効果しか感じられない。 日中は天気も良く日が出ていたため、今と同じ格好では逆に暑く感じるくらいだったが、ほぼ身動きが取れない今の状況のせいもあり、体温はじわじわと奪われていくばかりだった。 首に巻いていたストールを口元まで引き上げる。ストールにもカイロを一つ巻き込んでいたが、やはり効果は微々たるものだ。今となって防寒処置の甘さを後悔する。 つい先ほど最初の定時連絡を済ませたばかりだ。状況は1800から2400までの6時間。あと5時間近くこのまま寒空の下で這いつくばっていなければならないと思うと、気が滅入ってくる。 東北地方、宮城県にある某航空自衛隊基地では、陸上自衛隊普通科と、航空自衛隊の警備部隊合同による対ゲリラ戦共同訓練が行われていた。 赤部隊として2個小銃分隊が滑走路を含めて周囲十キロ以上の広さがある基地のどこかから放たれ、武器庫や弾薬庫、管制塔、電波塔、そして格納庫や航空機を爆薬を使用して破壊する。それを青部隊である普通科、基地警備隊混成の一個中隊が阻止、ゲリラを制圧する想定の訓練だ。 基地内の指揮所が本部として使われ、青部隊主力である3個小銃小隊及び一個基地警備小隊がポストでの警戒、軽装甲機動車による巡回、応援要請があった際に現場へ駆けつける即応支援等の任務を与えられ、どこから来るかも分からない敵に備えて互いに連絡を取り合い、四周に目を光らせている。 恐らく敵は分隊を2ないし3組程度に分けて行動するだろう。小数の組がどこかで銃をぶっ放して騒ぎを起こし、そちらに注意が向いているスキを狙って5名前後の敵による施設の破壊活動が行うという行動が最もオーソドックスだ。
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