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社交界でも美姫と名高いミス・ラムは美しいトパーズの瞳に艶やかな褐色の毛皮を持つ、それは愛らしい美猫である。
ミス・ラムは毎日、朝の7時に起きる。
召使いの老婆"バーチャン"が作る召使い達の為の朝ごはんの香りで目を覚ますのだ。
「あら、今日のブレックファーストはサーモンのジャパニーズムニエルのようですわね。
皮が焼ける芳醇な香りが実に食欲をそそりますわ」
ミス・ラムがベッドでのんびりしていると、もう1人の召使い"アイ"が呼びに来たので、仕方なく暖かいベッドから降りた。
しかし、12月にもなると否応無く冷気がミス・ラムの愛らしい肉球から体温を奪っていく。
これ以上、ミス・ラムは自分の肉球が冷めたくなる事に耐えられなかった。
「アイ、私を抱き上げなさい」
そう言うと、アイはとても嬉しそうな顔で、ミス・ラムを恭しく抱き上げた。
この召使い、アイはなかなか優秀な召使いである。しっかりとミス・ラムが尊い存在である事を知っているのだ。
どれほど召使い達の食事が食欲をそそろうとも、ミス・ラムは決して召使いの食事を取ろうとはしない。
召使いの食事を取り上げるなどプライドが許さないし、召使い達の食事はミス・ラムの体に合わず、体調を崩してしまうという事を知っているのだ。
ミス・ラムは美しいだけでなく、優れた頭脳も待っているのだ。流石である。
アイが用意した体に良い"カリカリ"と呼ばれる朝食を済ませ、ミス・ラムは身だしなみを整える。
乙女たるもの、いつでも身だしなみに気を使う。
アイ以外の召使い"カーサン"、"トーサン"も、ミス・ラムの愛らしさに、骨抜きである。
それ故に、召使いの分際で尊いミス・ラムに気軽に触れようとする。
蝶が花に惹かれるように、愛らしいミス・ラムに皆が惹かれるのも当然ではある。
しかし、先ほども記述したようにミス・ラムは尊い存在なのである。
下々の者がおいそれと触れて良い身ではない。
故に、ミス・ラムは無礼にも触れようとしたものに牙を立てる。それはもう痛烈に。
これは下々の者が身の程を弁えるようにと願う、ミス・ラムの愛のムチなのだ。
そうしてまた乱れた毛を整える作業に戻るのだ。
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