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ようやく泣き止んだ私は、祖母を引き連れて外に出た。
いつの間にか垂れこめていた雲は薄くなり、真っ赤に燃えているようであった。まるで炭火のようなその夕日に照らされて、蕎麦畑が、てらてらと光っていた。
祖母は目を細めて、蕎麦畑を見つめていた。
「あんときゃ、おれも、一生懸命でな」
「うん」
「おめらがいぬのはおめらの好きだが、子は巻き込んじゃなんねえと」
「……うん」
「すまなかったなあ」
「ううん」
私は自らの腹を撫でる。
――おめらがいぬのはおめらの好きだが。
――子を巻き込んじゃなんねえ。
その通りだ、と私は思う。祖母が私にしてくれたことと、おそらく全く同じことを、私はしたのであろう。
私は、目を閉じた。
後悔していないといえば嘘になる。けれど、この子を殺すことは、どうしたってできなかったのだ。
目を開けると、そこには、蕎麦畑が広がっていた。
寒風にさやさやと揺れ、心地よい音を奏でていた。
「ばあちゃん」
祖母は、いったいどんな気持ちで、十五年。この蕎麦畑を見ていたのであろうか。
「私、この家に戻る」
「そ、け」
祖母は、何もかも承知というように、頷いた。
「んなら、おめが次のハフリだなあ」
「……そうだね」
「うめて、こ」
祖母の言葉に後押しされるように、私は微笑んだ。庭に止めてあった車へと向かい、後部座席に積んでいたあの人を、ずるりと引き出した。
母と、父が眠る、数々のミケが眠る。村人たちが眠る、この蕎麦畑に。私は今日、新たな仲間を加える。
ハフリとしての、初めての仕事であった。
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