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後押し
停滞した自分に一石を投じたのは、隣に住む幼馴染みだった。
「いい加減にしな」
幼馴染みは一言いい、無理矢理腕を引っ張ると外へと連れ出した。
構うなと頑なに言い続ける自分を車に押し込み、無言のままエンジンをかけたのだ。
何処に行くのか判らない。
相手は無言のまま。
自分は、ただただ、不安だった。
車が停まり、ドアが開けられ、外の空気が入ってくると、何かがにおった。
嗅いだことがあるにおい。
獣のにおいだ。
懐かしく思い、失明してから初めて自分から外へ足を向けた。幼馴染みが手を握り立ち上がるのを手伝ってくれたようだ。そのことに気づいたのは後になってからだった。あの時はにおいの先を追うのに意識が向いていて、それ以外のことは何も考えていなかったのだ。
「見学予約の者です」
幼馴染みの声で、どうやら連れてこられたのは何かの施設らしいと予想がついた。見学と言うからには普段は一般には見ることが出来ない場所らしい。案内されるままについて行く。すると耳が音を拾った。
泣きそうになった。
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