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光
犬の、それも仔犬の、小さな甘え声。
頭の中に鮮やかに浮かんだ姿がある。
コロコロとした黒い仔犬。
「バディ」
呟いていた。
幼い頃に一年だけ一緒に過ごしたラブラドールの仔犬。
真っ黒な毛並みに人懐っこい瞳。
ああ、そうか。
ここには来たことがある。
バディに出会った場所だ。
母犬の腹にくっついて眠る仔犬たち。クリーム色の犬の中、一匹だけが真っ黒だった。そして、その仔犬が家に預けられたのだ。相棒という意味を込めてバディと名付けた。
「覚えてたな」
幼馴染みが安心したような声で言った。それで目が覚めた。
「バディ、頑張ってますよ」
聞き覚えのある声。バディを預かった時、バディを返した時、その人はいた。自分がバディを訓練するのだと。訓練に合格したら、バディは本当の相棒のもとで立派な仕事をするのだと。その人は盲導犬の訓練士だった。
「あなたがバディをいっぱい愛してくれたから、あの子はとても人を好きになったのよ」
バディが盲導犬の試験に合格したと連絡が来た時に、訓練士が言ってくれた言葉は、とても誇らしかったのを覚えている。
「自分にもバディのような相棒が持てるでしょうか」
出てきたのは自分でも信じられないような言葉だった。
「今のままでは駄目。最低限、自分で外出できるようにならないと」
盲導犬を持とうと決意したのは、その時だった。
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