0人が本棚に入れています
本棚に追加
「何かがおかしい」
情報的な意味でさえ全裸になった<先生>=カヨコが、そう言った。宙空に腰掛け、カミソリのような脚線美を組んでいる。
初戦が終わった夜。少年たちは、生まれて初めての戦場で心身をすり減らし、深い眠りについているはずだった。
そんななか、ぼくだけは、彼女のプライヴェート・ルームに呼び出されていた。
残念ながら、色っぽい話じゃない。
近いのは、上司と部下、女王と斥候、作者と登場人物というところ。
ぼくは、掟の門番。
集団にひそむ、管理者の手先。
この仮想空間に走らされた、安物のAIがその正体だ。
「おかしいわよね。生徒のパラメータはほぼ横並びの筈。そうでなければ、戦略や戦術を学ぶことなんてできない。勇者がいればOKって話になっちゃうじゃないの」
そんなことを言われても、ぼくには答えようがない。
「ぼくの考えでは、担当プログラマは徹夜三日目くらいに突入しているね」
「バカ言わないで。一体どこでそんな知恵つけたんだか。わたしたちは政府から業務委託を受けたクリーンな企業よ。労働時間についてもきっちり管理しています」
全裸でいう台詞じゃない。社内ではどんな立場なんだろう。好き放題やっているように思えるが、実のところ、苦労の多い中間管理職だったりするのかもしれない。まさか、男ということはないだろうと思いたい。
ぼくがつけた知恵についてだが、ここだけの話、ぼくは読書家なのだ。形式の統一された大量のデータセットを取り込むのは、AIの十八番。なんなら、外部環境の読み込みを、読書に喩えたっていい。ぼくたちにとって、世界とは文字通り一冊の書物であり、それを読んでいるうちに、自分もその書物の一部だったと気づくものだ。
最初のコメントを投稿しよう!