2_ガン

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引用を終える前に、マサミはぼくの肩をつかんだ。 「まったく反吐が出そうだな。戦争の教育効果だって?」 どうやら、彼は見た目通りの反骨精神の持ち主らしかった。めずらしいオールドタイプ。 「軟弱な若者は、徴兵して叩き直せ。ただし、金はかけるな…そういうことさ、この閉鎖空間は、見ろ、ほとんどがハリボテだ」 ぼくは、ブーツのつま先を持ち上げた。 「なんだ?」 「ぼくらは岩と砂しかない曠野を歩いている。それなのに、ブーツに砂埃がつかない。季節は、ずっと夏。おそらく、こんなに殺風景なのも、背景にリソースを割かないため。用意できる限りの計算資源を、別のものに投入しているんだろう。たとえば…」 「〈ナツメ〉!」 身体中に電撃が走った。〈先生〉の放った、『おしおき』ショックだということが、彼女の口調でわかった。 「行軍中の私語は禁止、そう冊子に書いていなかった?」 ぼくは、なんとか呻き声をあげるのを我慢しながら、こう言った。 「ええ先生・・・再読します」 草一つ生えてない黄土色の大地で、少年兵に囲まれた〈先生〉は、真紅のハイヒールを履いていた。  あれは象徴だ。マスター級の権限をあたえられている証。ぼくたちが何万人束になって突撃しても、髪を梳るくらいの間に全滅させられたうえ、反省文を千度コピー&ペーストしないと出られない情報的独房へ監禁されることうけあいだ。  一度でいいから、クソババアと呼んでやりたい相手だった。 「おい、〈ナツメ〉、大丈夫か?」 「たとえば、そう。『痛み』とかに、リソースが割かれてるんだよね」 ほんっとに痛い。歪んでいるであろうぼくの表情を見て、マサミの喉が少し震えたのがわかった。こういう生徒ほど、転向するのは早い。きっと、死を恐れない、従順な兵士になることだろう。 *
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