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私はいつもと変わらない日常に戻った。
違うのは、毎日あの日を想い続けている心。
もう逢えない、本当は逢うことさえ叶わなかった人。
私は毎日、古本屋を巡る。
どこかにあの本が存在しないかと。
ある日、ふと立ち寄った古本屋の店頭本棚に、背表紙のない小さめの本を見つけた。
何とはなしに手に取ろうとする。
すると、反対側からもそれに手が伸びてきた。
思わず手が当たる。
「あ、すみません!」
「いや、こちらこそ。」
優しい声音の男性の声。思わず顔をあげる。
そこには、夕陽に照らされた優しい面立ちの男性が微笑んでいた。
……私は知っている。この声も、あの口許も。
あり得ない、あり得るはずがない。
それでも、私の胸は痛いくらいに鼓動が早くなってゆく。
嘘だ、いや、そうであれ。
手にしようとした本が、するりと落ちる。
二人は気がつかない。
その本はひとりでにパラパラと捲れ、最後の頁の先の頁が少し重くなったかのように反発しながら……開かれた。
『時違えども君を想ふ。
この本が再び開かれたとき、また逢い見えんことを。
我が魂よ、君の元へ向かへ。時渡りて君を愛そう。』
~~Fin
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