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第3話 時渡りし想ひの果て
気がつくと、私はただ1人、夕焼けに染まるあの部屋にいた。
彼のいた気配のあるあのときではない、最初にいた場所。
私は泣いていた。手にした本に私の涙が染みを作る。
『私は長くない。わかつていた。誰にも看取られず、消え行くことやむなし。』
そのあとには白紙ばかりが続く。それでも私は、頁を捲り続ける。
……あるはずのない文字が目に飛び込む。
『時違えども君を想ふ。
わかつていた。気がつかないふりをしていた。
それでも私は君を愛す。死しても永久に愛す。』
危惧していたことだった。
けれど、私は胸がいっぱいで、涙を止めることが出来なかった。
期待、していたのだ。してはならない期待を……。
彼の人生を変えてはならなかったのに……。
この本を持っていきたかった。でも、それは許されることじゃない。
そっと文机に本を戻すと、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出る。
ずっといても、もう彼には逢えないだろうから。
アパートを出て、耐えきれず振り向いた。
……私は愕然とした。そこは、鉄の廃材が少し並んでいるだけの空き地だったのだ。
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