第3話 時渡りし想ひの果て

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━━彼がいたのは、大正末期?昭和初期?昭和中期? あの頃は、心が自由で物には不自由していた。 今は心が不自由で物が溢れている。 どちらが幸せなんだろう。 ううん、どちらがなんてない。どちらもおなじ。 自由であろうと無かろうと、満たされない思いは変わらない。 世に出た文豪と呼ばれる人たちも、埋もれてしまった人たちも、いくら吐き出しても満たされない思いに苛まされていた。 だから神経を患い、体にまで浸透して若くして亡くなっている人が多い。 今でこそ医療は発達しているけれど、あの頃はそんなものはなく、死を待つしかなかった。 短い余生の中で必死にもがいていた。 今の私たちはどうだろう。 彼らに比べたら物理的には充実していて、甘いような感覚にもなる。 現代は表現さえも規制を受け、肩身が狭い。 危険なシーンはオブラートになり、子どもへの負担を減らす傾向になっている。 だからこそ、現代でも神経を患う人が絶えない。 思いの丈を叫べたかの時代の方が幸せとさえ思える。 ただ怠惰に生きるよりはずっとマシ、と。
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