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あわてて通りすぎる彼女の腕をつかんだ。まだ、彼女には聞きたいことがある。
「もう、絵は描かないの?」
「描かないし、今の私じゃ描けない」
「どうして?」
「どうしてって」
戸惑う小夏さんと俺の間に、ピアスの彼がわって入ってきた。彼は、鋭い目つきで俺をにらむ。
「おい」
低くドスのきいた声に少しだけビビってしまうが、俺は引かなかった。
ここで、引いたらもう二度と、小夏さんは絵を描かなくなってしまうのでは……そう思った。
「小夏さんのその手は、動くのに?」
「おまえ、いい加減にしろ。部外者が口をはさむな」
どんっ、と強く肩を押されて、後ろへと倒れる。打ちつけてしまった背中が少し痛むけれど、俺は立ち上がった。
「……じゃない」
「あ?」
「部外者じゃない」
大きな声が教室中に響いた。
関係ないと言われてしまったのがイヤだったのか、それともあの絵をもう一度みることに意地になっていたのか。
「俺、今日から美術部に入る。だから小夏さん、俺と一緒に絵を描こうよ」
小夏さんに向かって、俺は手を差し伸べた。
この手をとってくれることを信じて……。
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