蜃気楼

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走って走れない距離ではないが、表通りに出たところでいったん止まって、再び歩き出した。復止まって、後ろを振り返り、車道に目を凝らした。居ない。 車に見つかって連れていかれそうな気がしたが、構わず表通りを歩き続けた。 並木道は緑のトンネル。 足元には舞い散った桜の押し花。 財布の中身を確かめる。 いざとなればクレジットもある。 未だ三時前、急げば今日中にたどり着く。 流しのタクシーに飛び乗った。 重なり合う桜の木々が左右からトンネルを作っている。 舞い散る花びらがさくら色の風を作る。 アスファルトに敷き詰められた桜の水面。 飛行機と電車で約二時間。 いつに間にか日は傾き、黄昏時に成っていた。 今が満開の桜並木。 仰げば夜空に月と星。 桜を舞わせながら歩道を歩く。 後ろから声をかけられた気がして振り向いた。 明日の朝まで付き合うように。 あいあいさー。
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