攻略失踪ルート

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1 <仕事が手に着かない>  最近仕事が手に着かない。原因は――  女だった。 小説を書いていた。連載物だった。日課のようにして書くのが仕事だった。 彼女の事が気になる。 とある施設で出会った臨床心理士。 名をミナミ、ある野球漫画のヒロインと同姓同名だった。 漫画に比べて細く華奢で澄んだ高い声の若い美少女?だった。 施設内でプログラムに参加している時、彼女が背後に立っていた。 その時が始まり、出会いの時だった。 何となく気になって振り向くと少し頬を紅潮させてしかし呆然とした感じの彼女が立っていた。彼女は私に接近してきて、傍らに立ち声を掛けた。私は仏法の本の読書をしていたので本の中身を少し紹介した。本のタイトルは「日蓮大聖人の仏法」。紹介したのは「持妙法華問答抄」。彼女は喜んだようなような笑顔を見せつつ同僚と去っていった。 <彼女に出会って暫く仕事が手に着かない心境だった> 其れから暫く彼女の事が気になって仕方ない日々が続いた。ほぼ毎日かなり四六時中彼女の事を考えるようになった。若干大げさではあるが、そんなもんだった。好きになった。間違いはなかっただろう。  施設では毎朝ミーティングが行われる。彼女もスタッフとして参列する。参列した彼女が身近、或いは視線の延長線上にいる。偶然だろうが、偶然と思えなくなるのが恋愛と言うものだった。当たっていたのなら、好きだとも言えず視線を交わしていたのは恋愛の才能だったのかもしれない。 其れから暫く、眠り難い夜が続いた。 <彼女の転属> そうした小学生みたいな大人の淡い恋愛はあっけなく終焉を予定された。 春の移動で彼女が転属になった。 同じ場所の別の所に移動になったと言う事だったので減ったとしても未だ会えるだろうと鷹ーをくくっていた。この考えは物凄く甘かった。逢えなくなったらそれっきり。それぐらいに考えておくべきだった。  フルタイムで働く彼女の職場をハーフで帰っていく帰り道、彼女が若しかしたら寄らないかな、と近所のファーストフードに寄ってみた。少々値段設定高めのファーストフードの料金が支払いきれず何時もフルタイム終了前に帰ってしまった。勤行を残していて家に帰って勤行を行う。その為にそそくさと帰る。等。思い返せばもっとましな対応が有ったろう?と自省する次第だった。    お別れの頃、彼女が私の視界内で、歩き去るとき唐突に振り返って「ミナミちゃんですよぉ」と言った。その仕草と言葉の印象が忘れられない。何が辛かったのだろうか。明確には今も未だ知れない。 <失踪?> 施設内の冊子に彼女のものと思しき記事が載っていた。姓が同じだった。元気にいしているのだなと納得した。安直と言えば安直。そしてその時気付かなかった見落としが一つ。 名前が違っていた。二年前の事だった。
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