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楽しげに会話をする二人。
そこにウェイトレスが日出の注文したグラタンを持って現れ、会話は一時中断となる。
いただきます、と挨拶をし、目を輝かせてグラタンを口に運ぶ彼女の姿を目にし、笠原は知らず知らずのうちに口元に笑みを浮かべていた。
「……なんや湊っさん、嬉しそうやないの」
呆れたような、軽蔑するような視線と、冷めた声。
向かいに座る明日香の顔には、彼に対する不信感が漂う。
「いや、誤解だ、誤解!」
「わざわざ訂正するあたりが怪しい」
「……すけべ」
彼を囲む女性陣からの敵意。
針の筵とはこんな状況を言うのだろうか。
彼はなるべくそれを無視しようと、食べかけていたハンバーグセットを口に運ぶが、無言のプレッシャーに囲まれては味を感じる余裕すらなく、せっかくの食事もまるで砂のように、無味乾燥なものとなってゆく。
頼むから早く終わってくれ。心の中で念仏のように唱えながら、彼は皆が食事を終えるまでの時間を過ごしていた。
「いやあ、食った食った!」
頭の後ろで手を組み、口笛を吹きながら歩く明日香。
彼女を先頭に、四人は店を後にする。
「すいません、ウチまでゴチになっちゃって」
笠原に頭を下げる里沙。その割に彼女は遠慮なく注文をしていたのだが、彼にそれを指摘する勇気などない。
「いや、里沙ちゃんも後輩みたいなもんだからいいんだよ。またこの店に寄らせてもらったら、その時はよろしくな」
これから夏がやってくると言うのに、すっかり冬景色となった財布を気にしつつも、年長者らしく振る舞おうと、なるべく自然に返す。
この場にいる人間がこの二人だけなら問題はなかっただろう。
だが、彼の言葉は関西から来た悪魔――明日香にも聞かれていた。
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