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「一発で駐車、それもあんなに無駄のない動きって凄いなあ……」
日出がその姿に見惚れていると、アクティのドアを開けてドライバーが姿を現す。
袖をまくった白いシャツに青いジーンズ、軽トラックのドアと同様に「瀬戸酒店」の文字が書かれたエプロンと帽子を付けたドライバー。それは軽トラックとはミスマッチな雰囲気さえ感じさせる、二十代半ばの女性だった。
「えっ、女の人……?」
日出はその姿に驚き、思わずS14から降りてしまう。
当然ながら軽トラックのドライバーもそれに気づき、日出の方を向く。
「……ん? どしたん? ウチの顔になんか付いとる?」
気づいてしまったからには何か声をかけなければいけないのだろうが、日出はドライバーの姿に若干押されていた。
160cmに満たない日出に対し、彼女は170cm前後はある。この身長差に加え、恐らくは仕事着なのだろう、若干ボーイッシュな雰囲気もあるラフな服装と、聞きなれない関西弁。日出も決して気が弱い方ではないのだが、何故かこのドライバーには妙なプレッシャーを抱いてしまっている。
それでも何か言わなければ彼女を怒らせてしまうのではないか。
眼鏡越しにこちらを見ている鋭い目つきに気圧されつつも、日出はなんとか口を開く。
「あ、いや、その……。女の人なのに、あんなに凄い運転テクニックを持ってて凄いなって……」
とっさに口をついて出た言葉がこれか。日出は自らを心の中で詰った。
その言葉を聞いたドライバーはくくっと笑うと、日出の頭を軽く叩く。
「なんや、そんなことかいな。こんなもん別に仕事で覚えただけやし、時間さえあったら誰かてできることや」
そう言うと、彼女は日出のS14に目をやり、ボンネットに貼られた初心者マークに気づき、納得した様子を見せた。
「あー、そう言うことか。なら心配ないて。きっとあんたもすぐこれくらいできるようになる」
今度は日出の肩を強めに、バンバンという音がするほどに叩きながら、彼女の眼を見て言う。
そして自動販売機の方に進み、コーヒーを購入すると、その横に設置されたベンチに座り、日出に対し「こっちに来い」と手を動かしてサインを出す。
日出が横に座ると、彼女はコーヒーのプルタブを開き、軽く口にした後、日出の方を向きなおした。
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