日出と明日香

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「免許取り立てなのに車はS14、おまけにこんな場所。……走り屋になりたいってクチやろ?」  ドライバーの声に今までとは少しトーンが違うような感覚を抱き、日出はやや恐怖感を覚える。 「……はい」  怒られるのだろうか。詰られるのだろうか。それとも殴られるのだろうか。  自分より体格のいい彼女に殴られると痛いだろうな。そんな考えがとっさに頭の中を巡り、日出は目を閉じた。  その姿を見たドライバーは一瞬あっけにとられた様子を見せたが、すぐに先ほどの明るいトーンに戻った声で、日出に話しかける。 「なんや、心配することないて……別にシバいたりせえへんよ」  日出は恐る恐る目を開き、ドライバーの顔を見上げる。彼女は笑顔で日出を見つめていた。 「ま、正直若い女の子がやる趣味やないとは思うけどな。危ないし、金はかかるし、走り屋の男なんて大抵パッパラパーのアホやし……」  少し自嘲も混ざったような様子でそう話す彼女。そして軽くため息をつき、日出の方を向きなおして告げる。 「でもまあ、本人がやりたいならええんちゃう?」  それまで緊張感が拭えずにいた日出は、その言葉を聞いて安堵し、大きく息を吐いた。 「なんやなんや……まるで怖い先生に怒られるんかと心配しとるガキみたいな態度して……」  ドライバーはまた軽く笑うと、コーヒーを一気に飲み干し、缶をゴミ箱に投げ込む。金属同士がぶつかり合う子気味いい音が聞こえ、彼女は立ち上がって軽トラックに乗り込む。 「まー、あれや、走り屋になりたがるんもええけど、ケガだけはせえへんようにな」  笑いながらその場を去ろうとする彼女に、日出はとっさに言葉をかけた。 「あ、あのっ! 私、日出! 朝倉 日出(あさくら いづる)って言います!」  突然の自己紹介に面食らった様子のドライバーだが、すぐに元の様子に戻ると、日出に手を振って自らの名を告げる。 「明日香、瀬戸 明日香(せと あすか)や! 機会があったらまた会えるとええな!」  駐車場を去っていく明日香の姿。日出は自分でも分らぬまま、何故かその姿をずっと見ていた。
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