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展望駐車場は本来観光バスなどの駐車を前提として設計されたため、走り屋たちが集まってもスペースに余裕があるほどの広さを持っている。
そのため、彼らのようなチームを組む人間はそれぞれで一角を占拠し、そこにいつも集まることも珍しくなかった。
もっとも、そのような行為をしても他の人間が駐車する広さは十分にあるため、これが原因でチーム同士のトラブルなどが起きたことはないのだが、そんなルールを知らないエリア外の走り屋や、初心者が現れれば否応にも目立ち、走り屋たちの注目を集めることとなる。
そしてこの夜も、そんな『ルーキー』が彼らの一角のすぐそばに車を止めてしまった。
「……ん? なんだあのS14?」
初めにそれに気が付いたのは、彼らのリーダー格である180SXの男だった。
白いS14前期。D.Speedのエアロパーツを纏い、ボディカラーと同じ白いスポークのスーパーアドバンを履いたその姿はチューニングカーのそれであり、ボンネットに初心者マークこそ貼ってはいるものの、こんな時間帯にこんな場所に現れたという事実そのものが、この車のドライバーも自分たちと同じ人種であると示していた。
「初めて見る車だし、ギャラリーでもしに来たんじゃないの?」
MR-Sの男がそっけなく呟く。
「ちょっと小次狼(こじろう)、アンタまた余計なこと考えてんの?」
CR-Xの女が彼を咎める。
「やめとけやめとけ、流石に初心者マークに絡むのはみっともない」
マークIIの男も呆れた様子で注意する。
だが、そんな言葉を無視し、180SXの男――小次狼はS14に近づいていく。
「よっ! もしかして初めて?」
S14の窓をノックした彼は、ドライバーが少女であることに驚くものの、まるで以前からの友人に話すかのように、軽い雰囲気で話しかける。
「えっ、あっ、その……」
言葉に詰まるS14の少女――日出に対し、小次狼は一方的に話を進める。
「俺は塚原 小次狼(つかはら こじろう)って者なんだけどさ、仲間と『リトルファング』ってチームを結成してるんだ」
「あっ……はい……」
「見た感じ初心者っぽいけど、ここで走る上で分からないことがあったら気軽に俺たちに聞いてほしい」
「えっ……あっ……」
完全に小次狼の勢いに飲まれている日出。そこにようやく助け舟が現れた。
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