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「小次狼、アンタ馬鹿でしょ?」
日出の様子を見かねたのか、CR-Xの女が割って入る。
切れ長の瞳に直線的にカットされたショートヘア、派手なグラフィックが描かれたタンクトップとダメージジーンズの組み合わせは気の強そうな印象を与えるが、実際にそのような性格なのだろう。彼女は小次狼に歩み寄ると、日出そっちのけで彼を罵倒していく。
「見なさいよ……この子完全にアンタに引いてんじゃない。誰もアンタが誰とかチームだとか一方的に聞きたくないっての」
「す、すまん……里沙(りさ)」
「大体、アンタは雰囲気がやらしーのよ、や・ら・し・い! 女の子にそんなヘラヘラしたノリで近寄ったら普通は怯えるっての! ちったぁ自分が歩くセクハラだと自覚しなさいよ! いい加減に!」
里沙に“やらしい”とまで言われた小次狼。
男性としてはあまりいいとは言えない体格、そして首のあたりまで伸びた髪と、里沙とは正反対とも言えるやや垂れ気味の瞳。それが彼を頼りなく、そしてどこか信頼できない人物として見せていることは否定できないが、その言われっぷりには日出もやや同情を感じていた。
「あ、あのー……。それで、小次狼さんと……リトルファング、でしたっけ? そちらの皆さんはやっぱりよくこちらを走っていられるんですか?」
話題を変えようと、日出が口を開く。
その意図を察したのか、この様子を見ていたMR-Sの男が日出の問いに答える。
「ああ、俺たちは大学の自動車部の仲間で構成したチームでね。その時に部長だった小次狼がそのままリーダーになって、社会人になってもこうして集まってるってわけなんだ」
身振りを交えつつ、小次狼の方を指して説明をするMR-Sの男。
こちらは小次狼とは異なり、スポーツマンのような雰囲気を漂わせているが、その口調は穏やかだ。
「チーム名も本当は『リトルウルフ』にしようってアタシと芳樹(よしき)……ああ、このMR-Sのコイツと言ってたんだけどさ、『そんなチーム名じゃナルシストみたいで嫌だ』って小次狼の馬鹿が駄々をこねたもんだから、今のリトルファングになったってわけ」
ししし、と笑いながら、二人の会話に入り込む里沙。
指摘された小次狼は恥ずかしそうに日出から視線を逸らしているが、里沙はその姿を親指で指し、さらに笑っている。
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