ガレージ笠原

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「何にしようかなぁ…」 「高いの頼んだらええで、どうせ湊っさんの金なんやし」  メニューを眺め、思い思いの発言をする二人。  向かいに座る笠原は浮かない顔をしているが、それはどうやら彼女たちだけが原因ではないようだ。 「なあ、どうすんだよ“コレ”……」  自らの隣に座る人物を指差す笠原。そこには私服に着替え、項垂れている里沙が座っていた。  メイドのような制服姿とは違い、鮮やかな赤色のショルダーカットのトップスとダメージジーンズの組み合わせは彼女らしい攻撃的な印象を与えているが、本人はそんな服装とは裏腹に、死んだ魚のような目をし、未だに黙り込んでいる。   「いつまで落ち込んどんの、里沙……」  メニューを畳み、彼女に渡す明日香。 「ほれ、飯でも食ってパッと行こうや。湊っさんの奢りやし」 「はぁ!?」  聞いていないといった様子で明日香の顔を見る笠原だが、彼女はそんなことなど気にせず、ウェイトレスを呼ぶと、里沙の分の水を受け取り、彼女の前に置く。 「あのさ、明日香さんにも言ったんだけどさ……」  ゆっくりと顔を上げ、口を開く里沙。 「お願いだから、ここで働いてることはみんなには内緒にしておいて。特に小次狼にだけは、ぜ・っ・た・い・に!」  懇願するような声は徐々に熱を帯び、最終的に脅迫するようなドスの効いたものに変わる。 「なんで小次狼さんには言えないんですか?」  ふとした疑問を呟く日出。彼女はまだリトルファングのメンバーとの付き合いが浅いから無理もないだろう。  その問いに、里沙は嘆息し、頭を抱える。 「アイツ、ああ見えて顔が広いのよ。その上、お調子者で口は羽根よりも軽い。少しでもアイツに漏れたりしたら、どんな秘密でも栗柄の走り屋の周知の事実になっちゃう」  もう一度息を吐くと、水を口にし、再び口を開く。 「そ・れ・に! アイツのことだから、絶対、絶っっ対にリトルファングの連中を連れてきて、長時間粘るわ。それも安いコーヒー一杯で……。この店さ、制服があんな恥ずかしいデザインであることに目を瞑れば儲かるいい仕事なのよ。だから、小次狼みたいな馬鹿に邪魔されたくないの……あぁあ……」  小次狼にバレた場合の惨状が頭をよぎり、里沙は声にならない声をあげ、机に突っ伏してしまう。
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