ガレージ笠原

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「安心してください。そういう事情があるなら、絶対言いませんから」  困ったような顔をしつつも、なんとか口元だけは笑顔を作り、里沙を慰める日出。 「ありがとう、日出ちゃん! 愛してるっ!」  里沙は彼女の言葉に顔を上げ、喜びからその手を握りしめる。 「(大袈裟だなあ、里沙さん……)」    数分後。  里沙は落ち着きをようやく取り戻し、彼女を含めた四名は思い思いに注文を済ませ、既にそのうちのいくつかがテーブルに置かれている。  最初は一人分の注文が増えたことで青ざめていた笠原も、今は女性陣に囲まれているからか、まんざらではなさそうだ。   「そう言えばさ、日出ちゃんのシルビア……S14はあれからどうなったの?」  パスタに手を付けながら、里沙が問う。  日出と彼女はクラッシュ以後顔を合わせていなかったのだ。知らなくても無理はないだろう。   「実は今日、パーツを手に入れてきた所なんですよ」  嬉しそうに頬を緩ませ、日出が答える。  机にはドリンクバーで入れてきたメロンソーダが置かれ、それを美味しそうに口にしながら、彼女は続けて言う。 「次のバンパーはGT―R仕様なんですよ! GT―R!」  スマートフォンを取り出し、里沙にバンパーの写真を見せる日出。  彼女はそれを食い入るように見つめ、笑顔で賞賛する。 「いいじゃん、格好いい。早く栗柄に戻ってきなよ、あのバカも心配してたしさ」  ししし、といつものように笑う彼女。先程までの落ち込みは既に無く、ようやくいつもの彼女らしい姿になったと言えるだろう。
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