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「なんや湊っさん、まさか里沙のウェイトレス姿に興奮したんか?」
彼の肩に手を回し、ゲラゲラと笑う明日香。テンションが上がっているのか、いつの間にか普段の態度とは異なり、まるで友人に振る舞うようなそれとなっている。
「えっ……ちょ、それは……」
顔を赤くし、とっさに胸を隠す里沙。
制服姿を見られた羞恥心が蘇ったのか、そのまま背中を彼に向ける。
「笠原さん……やっぱりそういう目的でこの店に……」
日出まで彼女たちの言葉に乗せられ、彼を軽蔑の目で見る。
ここまで来ると口裏を合わせてやっているのではないか。笠原は泣き出したいような、逃げ出したいような気持ちで、情けなく弁明の言葉を漏らす。
「ちげえよ、馬鹿……」
弱々しく歩く彼を追いかけ、明日香は彼を励ます。
「冗談や冗談、悪かったって湊っさん」
「お前なあ……流石に今回は泣きそうになったぞ」
大きなため息を吐き、項垂れる笠原。
その姿が面白く、悪いとは思いながらも里沙はつい笑ってしまう。
「あ、いや、すいません……あ、あはは……じゃ、アタシはこの辺で……」
笑いは苦笑混じりのものに変わり、逃げるように従業員用駐車場に向かう里沙。
そこには赤いCR―Xが、主人の帰りを静かに待っていた。
「あんな娘が、あんな格好でウェイトレスだもんなあ……」
里沙の後ろ姿を眺め、呟く笠原。
世の中分からないもんだ、そんな風に漏らし、彼はGC8のリアシートに座る。
助手席には日出。そして運転席には明日香。
後部座席からの景色はさながら姉妹のそれであり、この二人――少なくとも日出は、走り屋になど見えないだろう。
自分はこの少女の笑顔を守ってやれるだろうか。
明日香と今日の出来事を振り返り、笑顔を浮かべている横顔を見て、彼は自問する。
彼はただの車屋でしかなく、彼女にS14を売った時点で、本来は彼女との関係も終わっている。
メンテやチューンの依頼を引き受ければ話は別だが、彼女がどこで何をして、そしてどのような結末を迎えようが、知らぬ存ぜぬで通してしまえばいい。
だが、彼の良心がそれを咎め、悩ませる。
――ああ、厄介な客に売っちまったもんだ。
彼は一人自嘲し、煙草に火を点けた。
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