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「日出……」
無茶で馬鹿で頼りない、まだ駆け出しの幼い少女。
明日香が空駆ける鷹だとすれば、彼女はまだ歩くことすらおぼつかない、弱々しい雛鳥のようなものだ。
自分は彼女に友だと言った。
それは同情からだろうか。
「違う」
己の孤独を満たす、都合のいい道具が必要だったから?
「違う」
彼女に夕凪の姿を重ね、哀れな代用品にしたかったから?
「違うッ!!」
ならば。
ならば答えろ。明日香。
お前はあの少女に何を願う。
「ウチは……」
「ウチは、アイツを“フラットアウト”の先にまで育てたる」
「デカい目標やろ。ビビったか、“明日香”」
自問自答の答え。
我ながら、イカれた回答だと自嘲する。
だが、これで迷いは晴れた。
どうして出会って間もない少女にそこまで賭けられるのかなど、説明ができるわけがない。
それでも、自分は彼女に何かを見た。
理由など、それで充分だろう。
「く、ふっ、ははっ……はははっ……!」
闇の中、GC8のアイドリングと明日香の笑い声だけが反響する。
彼女はコーナーレンズの欠片を投げ捨てようとしたが、思い直し、それをジャケットのポケットに入れる。
覚悟しろ、明日香。
S14が直れば、お前は忙しくなるぞ。
心の中で己を鼓舞し、それに対して吐き捨てるように答える。
「うっさいわ、バーカ」
栗柄のワインディングロードを、黒いGC8が駆け下りる。
だがその走りには先程までの迷いは無く、エキゾーストノートは高らかに、どこまでも届くかのように澄んでいた――。
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