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深夜の栗柄。
コーナーに陣取るギャラリーたちは、皆あるものを待ちわびているかのように、ただ一点を見つめ、猛烈な熱を帯びている。
光と音の熱狂。
まるでパレードのように、こちらを目指して下る、無数のヘッドライト。それらの生み出す残光は一列の帯となり、幻想的な風景を作り出す。
エキゾーストの咆哮、ブローオフバルブの吐息、そしてタイヤが奏でる、悲鳴にも似た強烈なスキール音。
それは徐々に大きくなり、彼らに迫りくる。
「来たっ!」
誰かが叫び、人々は色めき立つ。
集団は手前のコーナーを抜け、ヘッドライトは真っ直ぐに彼らを襲う。
目も眩むような光だが、誰一人として目を逸らさず、逆にそれを睨みつけるかのように、さらに強く、その光景を焼き付けようとしていた。
「来い! 来い来い来いッ!!」
「『CRAZY MONKEY』!!」
「雪村勝平ッ!!!!」
こちらに来る走り屋に対し、ギャラリーたちが吠える。
雪村と呼ばれた走り屋……彼を称える声。
その声に応えるように、先頭の車はコーナーの手前から車体を左右に振り始め、ほぼ真横のような角度で車体を目の前のギャラリーに見せつける。
何も知らない者であれば、その車はシルビアやチェイサーのような定番のドリ車の走りだと思うだろう。
だが、彼らの目の前を滑走し、称賛を一身に浴びるその車体は、明らかに異質な姿をしていた。
――スズキ・CV21S型ワゴンR。
エアロパーツを纏い、オーバーフェンダーやGTウイングで武装をしているが、その姿は紛れもない軽自動車、それも軽トールワゴンと呼ばれるジャンルそのもの。
それが後続のシルビアやハチロクを抑え、より速く、より角度の付いたドリフトでコーナーを滑走する光景は、出来の悪い合成映像を見ているような不気味さすら感じさせる。
その姿に、その走りに沸き上がるギャラリー。
彼はその姿をミラー越しに見やると、余興とばかりにエキゾーストからアフターファイアを放ち、ワゴンRは次のコーナーに消えていった。
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