始動

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 月曜日。ガレージ笠原にて。  この日はバイトのシフトが無いため、日出はケーキを片手にこの店にやってきた。  先日の礼をし、あわよくばS14の修理を手伝わせてもらおうと考えていたため、今日は半袖のシャツに厚手のジーンズと、汚れてもいいラフな服装を選んできている。  愛車はどれくらい進んだのだろうか。もしかしたら、もうGT―R顔になっているのかもしれない。  そんな風に考え、事務所のドアを開ける。だが、そこには誰もいない。   「おかしいな……」  ピットにいるのではないか。そう考えるも、こちらももぬけの殻。更にS14も姿を消していた。  事務所が開き、シーマが止まっているから休みではないはずだが、笠原の姿はどこにも見当たらない。  その時だった。  日出は店の敷地の一角に、謎の青い巨大なテントのようなものを発見する。  店のどこにも笠原がおらず、ピットにあるはずのS14の姿もない。  そうなると、あのテントの中で笠原はS14になにか作業をしているに違いない。  そう結論に至った彼女は、勢いよくテントの入り口を開く。   「笠原さん、差し入れですっ!」  笑顔でテントに入った日出。だが、彼女はその中で行われていた作業を見て絶句する。  ガスマスクのようなものをした笠原が、自らのS14のボディに妙な機械を押し当て、傷つけていたのだから。   「ち、ちょちょちょちょっと!! 笠原さん!? なにしてるんですか!?」  半狂乱になりながら笠原に駆け寄り、大声で叫ぶ日出。目には涙が浮かび、手に持っていたケーキは凶器のように振り回されている。  突然の襲撃者に混乱し、尻餅をつく笠原。彼はそれが日出だと気がつくと急いでマスクを外し、手で制止のジェスチャーをしながら、彼女を宥めるべく口を開く。   「日出ちゃん! 誤解だ! 誤解だって!」  彼はそう言うと、足元に転がった工具を手に取り、彼女に見せる。 「これを使ってS14の側面の傷を直してただけなんだ!」  笠原の手に握られていたのは、所謂サンダーと呼ばれるもの。  これを使い、ガードレールに接触した箇所の周囲の塗装を剥がしていたのだが、それが日出にはボディを傷つけているように見えてしまっていたのだ。
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