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笠原は朝から困惑していた。
朝食も食わぬうちに明日香からの電話を受けたかと思えば、彼女はスピーカー越しにさっさとピットを開けろとのたまう。
仕方なく朝食を諦め、作業着に着替えるだけの簡単な身支度をして店に向かうと、そこには日出、明日香、小次狼が待っていた上、敷地には明日香のアクティと小次狼の180SXまで既に止まっていたのだから。
「お前らなあ、うちの営業時間くらい考えてから……って、聞くタマじゃねえか」
馬鹿な後輩を持ったもんだと、彼は一人で静かに嘆く。
事務所を開けてエアコンのスイッチを入れると、次はピットのシャッターを開く。
事務所に戻った彼はソファーに座ると、財布から千円札を何枚か出し、明日香に渡した。
「まだ朝の七時だ。どうせお前ら飯も食っちゃいないだろ。これで俺の分を含めて、コンビニで好きなもん買ってこい」
そう言い、彼は背もたれに体を深く預ける。
「俺は昨日まで作業してて疲れてるし、朝飯もまだなんだよ……頼んだぞ……」
そう話す目元には隈が浮かび、心なしか頬も痩けて見えた。
「しゃあない、日出、小次狼。コンビニ行くで」
預かった金を財布に仕舞い、歩き出す明日香。その後ろを日出と小次狼が、まるで子分のようについていく。
窓越しにその姿を眺め、笠原は苦笑する。
「ありゃあ、まるでガキ大将だな……」
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