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――栗柄峠。
神奈川と静岡の境目にあるこの峠は足柄山地の一つを貫くように通り、戦国時代には検問所や城も整備され、交通の要として合戦すら起こった地でもあった。
しかし現在では高速道路やバイパスの整備に伴い交通量も減り、現在ではかつての史跡を訪ねる者と地元住人しか利用しない道となっている。
そんな山道をS14がゆっくりと登っていく。
「自転車やバイクではよく来てたけど、車で見る景色はやっぱり違うんだな……」
流れる景色に目を奪われながら、日出は呟く。
青々とした木々の間を抜けるワインディングロードは景観も良く、わずかに開いたサイドウインドウから入る風も心地良い。
愛車でゆったりと走るには最高の場所と言えるだろう。
右へ左へ、ツイスティなコーナーを一つ、また一つと抜けた先には、栗柄峠展望駐車場が出迎える。
かつての栗柄の歴史を語る石碑が特徴的なこの場所は、バブル期に当時の町長肝入りの企画として、栗柄城跡地を訪れる観光バスのために整備されたものだったが、バブル崩壊と共に観光客は減少、現在では利用者無き、ただの広大な駐車場として成り果てた場所である。
そんな駐車場の端、自動販売機が多数並んでいるエリアに日出はS14を停めると、シートを倒し、窓を開け、昼食の準備を始める。
「本当は車の中で飲食ってあまりしちゃいけないんだろうけど、今日一日くらいはいいよね」
自らを説得するように独り言を言うと、日出はチーズバーガーを口に運ぶ。ファストフード特有の濃い目の味付けが口の中に広がり、それを誤魔化すようにシェイクを口にする。こちらも強烈な甘さを持つが、塩辛い味付けとはいいバランスなのだろう。
油が付いた手で車内に触れないように気を付けながら、景色と山特有の環境音を楽しむ日出。
最後のポテトを取り、食事を終えようとした時、一台の軽トラックが駐車場に現れた。
白いHA6型ホンダ・アクティ。ドアに『瀬戸酒店』と書かれたその車は、日出の方に近づいてくると、そのままスムーズな動きでS14の隣に駐車する。
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