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脅されたのは本当だけど、脅しに屈して付き合ったわけじゃない。
雅信さんの偉そうな態度に反発しながらも、惹かれるものがあったから。
強引だけど、私を求めてくれる不器用な熱さが嬉しかった。
「樹利亜ちゃん、腰、ほっそいねー。ちょっと無理させたら砕けちゃいそう」
門倉さんの言葉は工場でもみんなによく言われる。だから、何とも思わずに聞き流したのに、雅信さんは怒り出した。
「樹利亜を厭らしい目で見るな! 彼女に無理させるもさせないも俺次第なんだから、おまえには関係ない」
またヒューヒューとからかわれて、真っ赤になった私の顔を隠すように雅信さんは胸の中に抱き締めた。
「あーあ。こんな雅信、見てられないわね。さっさとお開きにして、2人きりにしてあげようか」
佳乃さんの一声で、みんな「撤収、撤収」と呟きながら、あっという間に帰っていった。
私の車の助手席で眼鏡を外して深く沈み込んでいた雅信さんは、酔いが回って眠っているのかと思っていたのに。
信号待ちで停車した途端にムクッと身体を起こすと、いきなりキスをしてきた。
「酔ってるね」
「こんなの酔ってるうちに入らない」
すぐにまた熱い吐息と柔らかい唇が重なる。
どうしたんだろう。外では手も繋がない人なのに。
後ろの車にクラクションを鳴らされて、慌てて身体を正面に向けて発進した。
今夜の雅信さんは何だかいつもと違う。
私に対する独占欲を見せたり、甘いキスをしてくれてるんだから、もっといい方に考えられたらいいのに。
なぜだか胸がざわついて仕方なかった。
「ライト、消して」
いつもは私がシャワーを浴びてくると、ベッドルームは足元の間接照明だけになっている。でも、今夜は天井の大きな照明が煌々と部屋中を明るく照らしていた。
「消さない」
「恥ずかしいから消して」
「俺の誕生日だ。自分の女をじっくり見たっていいだろ?」
「もう日付が変わってる。いいから消して」
『また来年のお楽しみね』なんてことは言えない。来年の誕生日に雅信さんが抱くのは私じゃないだろうから。
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