シンデレラはパーティーに向かう

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「そんなこと言ったって仕方ないでしょ⁉ 忙しいんだから!」 木名瀬マネージャーの声がやけに響いた。 工場の中は機械音でいつもうるさいのに、それに慣れてしまうと上手い具合に人の声だけを聞き分けられるようになるらしい。 「逆切れかよ。マネージャーのくせに!」 吐き出すように呟いた砂押さんの声は、たぶん近くにいた私にしか聞こえなかったと思うけど。 *** 私が勤めるクリーニング工場はオータムセールの真っ只中だ。 年に2回の繁忙期とあって、忙しいのは当たり前。 特にこの時期は扶養範囲内で働くパートさんたちが103万の壁を前に出勤日数を減らしているから、扶養外の私たちは更に苛酷になる。 20代の私でも腰や足に来ているんだから、40代・50代のみんながヘロヘロなのは当然と言えば当然だ。 60代の斎藤さんがテキパキと機敏に動いているのが奇跡に思える。 だからと言って、50代後半の木名瀬マネージャーに同情する気にはなれない。 宇都宮に本社を置き、東日本を中心に展開するうちの会社では、春と秋に全店を挙げてセールを行う。 破格の割引とプレゼント品の数々。 クリーニングの取次店がひしめき合う都市部にあっては、会員になってもらって、お客様を囲い込むだけでは充分じゃない。 複数店舗の会員カードを持っていて、その時々でセールがある店の方を利用する。そういうお客様が一般的だからだ。 だから、メールやチラシやDMの特別割引セールを追加する。 木名瀬マネージャーはこの週末にまたそれをやらかしたのだ。 殺人的に増えた入荷に誰もが言葉を無くしていた。 工場に一歩入っただけでわかる。 各店舗から運んできた未処理袋が工場の通路を覆いつくしているから。 こういう時に限って、工場店の受付のシフトに入れる人が他にいなかったらしく、珍しくマネージャーが受付に入っていた。 「使えない奴が受付に入ってるよ」 不安を滲ませた砂押さんの予感は数時間後に痛い現実となった。
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