シンデレラはパーティーに向かう

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大忙しでヘトヘトになった日ほど、みんなすぐには帰らない。 ロッカーのある休憩室で、仕事の愚痴や今晩のお惣菜をどこで買うかなんてことを話している。 それを横目に私はトイレに入って着替えた。 工場では会社のロゴ入りポロシャツにGパンという格好で働いている。 工場内はアイロンやプレス機の熱や蒸気で暑いから、10月末でもまだ半袖だ。 「あー、諏訪ちゃん、明日は休みだっけ」 1番年の近い小圷さんが着替え終えた私を見て大声を上げた。30過ぎでバツイチ子持ちの彼女はとにかく地声がデカい。 みんなが一斉に私の方に目を向けた。 「諏訪ちゃん、今日が4日目だったもんね。お疲れ様」 労わるように優しく声をかけてくれたのは斎藤さん。それにコクンと頷いて、みんなにお疲れ様と声を掛けた。 小圷さんは別として、他の皆は私の親世代だ。 ハタチでこの工場に入ってきた私を、皆は3日と持たないだろうと思ったらしい。 確かに想像以上に過酷な職場環境だったけど、負けず嫌いの私は1週間ですべてのポジションの仕事をマスターした。 そんな人は後にも先にもいない。 だから、今では皆に仲間と認められている。 休憩室を出ようとする私に、みんなが口々にお疲れ様と言ってくれる中、小圷さんの声だけがからかいを含んでいた。 「今夜はお楽しみだね。彼氏によろしく!」 下品な笑い声に顔をしかめながら、振り返らずに階段を下りて行った。 確かに、今夜の私の格好はいつもと違うから、デートだということは一目瞭然だろう。 膝上丈のパープルピンクのワンピースに白のファーボレロを羽織って、ばっちりメイク。 さっきまで1つにまとめていた髪も下ろして緩く巻いてある。 工場の駐車場に停めておいた愛車に乗り込むと、スニーカーからハイヒールに履き替えた。 これでシンデレラの出来上がり。 会いに行く相手が身分違いの王子様ってところもシンデレラと一緒だ。 魔法が解ける時間は気にしなくていいけど、ハイヒールでコケないように気を付けないといけない。
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