シンデレラはパーティーに向かう

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今日は雅信(まさのぶ)さんの34歳の誕生日だ。 雅信さんは今夜酔い潰れることを想定して、明日休みを取ったそうだけど。 私は会社に提出する『希望休申請書』に”恋人の誕生日のため”なんて理由は書けるわけもなく。嘘をつくのが苦手な私は結局、運を天に任せるしかなかった。 だから、明日が休みになって今晩の誕生日パーティーに駆けつけられるのは本当にラッキーなことだった。 夜の高速を飛ばすのは怖いけど、彼と付き合うようになったこの半年の間にだいぶ慣れた。 今夜はいつもと違って、目的地は彼のマンションじゃない。 赤坂のお店を借り切って、大学時代の友達が祝ってくれるのだと言う。 彼は私も参加することに乗り気じゃなかった。 「内輪の集まりだから、きっと樹利亜(じゅりあ)は退屈する」 「そうかもしれないけど、お友達から雅信さんの話を聞いてみたいな」 私が食い下がったのには理由がある。 1つはパーティーのことを知るきっかけになった女性に嫉妬したから。 雅信さんとレストランで食事をしていたときに、偶然同じ店にいた女性が彼の大学時代の友人だった。 「あら、雅信じゃない」 馴れ馴れしく話しかけてきた女性に、彼も「ヨシノ」と呟いた。 『吉野』という名字かななんて考えたのは現実逃避に過ぎなくて、やっぱり『佳乃』さんと雅信さんは下の名前で呼び合うほど親しい間柄だった。 バツイチだという佳乃さんは私から見ても魅力的な容姿の持ち主で、実業家として成功していると聞けば、雅信さんと同じで【向こうの世界】の人だと痛感してしまう。 私の両親は娘の私が短大卒業と同時にクリーニング工場で働くことに決めても反対しなかった。 大手企業で事務仕事をするよりも、小さな工場で汗を流しながら手に職をつけたいと言った私を応援してくれている。 でも、そういうリベラルな人は案外少ない。 『職業に貴賤はない』。そんな言葉は建前だ。 佳乃さんは空調のきいた快適なオフィスで、人を顎で使って高い収入を得ている。 片や私はと言うと、夏は2時間も働けば下着が搾れるほど汗をかく職場だ。時給は県の最低賃金と同じ。 だから……私はまだ雅信さんに打ち明けられないでいる。 あなたとは住む世界が違うんだって。
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