好奇心が猫を殺す

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「空気清浄機置いてるんだけどな」 「生え換わりの時期だから、追いついてないんじゃないか」 啓一はシャツをバサバサと振った。 眉間に皺。とても苦い顔。こういう表情は見たことがなかった。 研修医としての生活のせいか目の下には常に隈が居座り続けているが、彼はいつも表情が豊かで、可愛らしい印象すらある。 だが今は、そこに苛立ちがはっきりと表れている。 「とにかく、実家にそのまま引き取ってもらうか、里親になってくれそうな知り合いにでも連絡してみて」 困った事態だった。 そもそもしらすは実家には預けていない。 わたしは父との仲が上手くいっておらず、引き取ってもらうどころか、預けることもできないでいるのだ。 しらすを貰ってくれそうな知り合いも、いくら頭を捻っても思い付かない。 「掃除をもっと徹底するよ」 この話題をうやむやに終わらせようとしたのだが、彼はそれを許さなかった。 「突然来られるとマズイ理由でもあるのかと、ついつい勘繰ってしまうよ」 「困ることなんて何もないよ」 忙しい時間を割いてくれているのに、予約なしでは家に入れないということには引け目を感じていた。 だが不誠実を疑われるとなると、毅然と否定しておかないといけない。 「そう思われても仕方ないって言ってるんだよ。 それに、オレもアレルギーさえ出なければ、少しの空いた時間でもここに来れるわけだし」 猫さえいなければ、もっと頻繁に会えるという言い分。 天秤にかければ自分のほうに傾くだろうという自信が透けて見え、 もやもやとした感情が湧き出てくる。 だが、忙しい彼のためにできることは何でもしてあげたいという思いがあるのも本当だ。 「なんとか貰い手を探してみる」 しらすを手放してしまわなくても何か方法はあるはずだ。
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