好奇心が猫を殺す

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わたしたちは高校の先輩と後輩だった。 彼はサッカー部の三年生レギュラー。わたしは一年生マネージャー。 チームの司令塔として活躍していた滝先輩は、試合での役割そのままに、誰といてもどんな場所でもその場の全員に気配りし、場の空気を作り上げる人気者だった。 わたしは密かに滝先輩に憧れていた。 彼が告白をされて誰々と付き合ったという噂は何度も聞こえてきた。 その交際はどれも長くは続かなかったようだ。 「オレって人間性に深みがないからか、付き合うとすぐに飽きられるんだよなあ」 ある時彼が、愚痴混じりに友人にそう話しているところを見かけた。 そんなはずはない、とわたしは思った。 たまたまその前日に、彼女らしき女子と滝先輩が一緒にいるところを見掛けていたのだ。 ヤジウマな気持ちはなかったが、やはり気になり耳をそばだててしまった。 どうやらおばあちゃんが亡くなったらしいその彼女に、彼は心を尽くして慰めていた。 「苦しいばかりの病室なんか抜け出せて、おばあちゃんはきっと天国で幸せでいるはずだよ」 そんな言葉が聞こえてきた。 それに対して、彼女のほうはイヤイヤと首を振るばかりだった。 彼女の悲しみはとても強かったのだろう。 だけど、滝先輩の慰めにまったく耳を貸そうとしないのは、甘えが過ぎるんじゃないのかと、わたしは腹を立てていた。 彼は優しすぎるのだと思う。 彼が彼女らしき女子を慰めたり宥めたりする光景は何度か目撃した。 相手が変わっても、 彼のその優しさは毎度毎度変わらなかったのだ。 だけどそれらは、わたしとは関係のない出来事だった。 わたしはといえば、親しく声は掛けてもらえても親密になる切っ掛けもなく、けっきょくは学校を卒業していく彼の背中を見送るしかなかったのだ。
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