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倫子はほくそえんだ。そして一華が休憩室に戻る時を見計らって
「見たわよ、一華」
と声をかけた。驚いて振り返る一華の目に飛び込んだのは、得意満面の大崎倫子であった。
「…私にあんな事言っといて、デキてるのはあなただったのね。だから私に牽制してきたんでしょ。清純そうなふりして、大した女よね」
と得意そうに一華を指さす。一華は、何を言われてるのか分らず、
「見たって、何の事?」
と聞いてみた。
「惚けないでよ!見たんだから。さっき、公園であなた達二人が会ってるとこ。堂々と人目のつくところで会う!そうする事によって周りから疑われなくて済む、ていう魂胆でしょうけど、私の目は節穴じゃないわよ。さも友達思いなふりして、腹黒いわね」
と倫子は一気にまくしたてた。一華は漸く言われている意味が理解できた。つまり、倫子はミカエルと一華が公園で会っているのを目撃して、二人が不倫していると思い込んでしまったようだ。一華は呆れたようにため息をつくと、
「…人は、自分と言うフィルターを通してしか物事を見れなくなりがちだけど…あまり、自分基準に全てを考えない方が良いわよ。じゃないと、誤解から大きなトラブルに発展したり、取り返しのつかない失敗をする可能性が高くなるわ。新入社員とかならまだしも、もう私達30歳近いのだし」
と憐れむように倫子を見つめた。倫子はそんな一華の態度にムッときて
「論点をすり替えないでくれるかしら?」
と一華を睨む。一華はその視線を冷たい視線で受け止めつつ、
「言ってもあなたには通じないでしょ。時間の無駄だから質問に答えないだけよ。さ、休憩時間終わっちゃうわ。歯磨きしてメイク直ししないと。あなたもそろそろ戻るころじゃない?」
と倫子に言った。その後一華は時計を見つつ、洗面所へ急いだ。
そんな一華の後ろ姿を見つつ、
「今度あの奥さんが来たら、一華と旦那が不倫してる事言い付けてやるんだから。見てなさい、一華」
と悔しそうに呟いた。
一華が急いで売り場に戻ると、ミカエルが売り場で待機していた。売り場に居たスタッフから引き継ぐと、どうやら彼は一華を待っていたらしい。一華はそのスタッフを休憩に行かせると、ミカエルの傍まで行き、
「ミカエル様、どうなさいましたか?」
と尋ねた。内心、何か忘れ物かな?と思いつつ建前上取り繕ってみる。
「一華、あの馬鹿女に何か変な事言われなかったか?」
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