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真夏の朝
リカ先輩が俺の体を揺さぶった。
「ノリマサ君?!ねえちょっと。いや、死んじゃダメえええ」
俺は最後の力で瞼を開けるとつぶやいた。
「い、いんだ。俺は・・・リカ先輩を守れればそれでいいんだ。もう思い残すことはない・・・。た、だ。俺が死んだら三年間はそれを隠しておいて・・・・くだ・・サイ」
悲しみにくれるリカ先輩。
彼女は俺のほっぺたをバシバシ叩く。痛い。
「何よノリマサ君!朝っぱらからどこの戦国武将気取りよ!起きろー!こんな道端で寝るなあああああああ!」
・・・これ夢じゃないぞ。なんだこれ。
瞼は意識せずとも普通に開いた。
「ええっと、リカ先輩?何してんですか?」
「あんたを叱っているのよこのくそったれ。なんでこんな蚊に刺されまくっているわけ?殺虫スプレーとかムヒとかなかったわけ?まったくノリマサ君は」
いろいろ言いたいことはあったが素直に身を起こす。そしてリカ先輩を見る。
現実の彼女は夢の中より九割増しで狂暴である。俺の彼女ではもちろんないし、第一憧れの女の人でもない。俺の好きな女の子は駅のカフェで働いているショウコちゃんだ。
なのになんであんな夢を見ちゃったんだろうな・・・。
真夏の夜の良い夢と良くはない現実とはすなわち、リカ先輩だった。
リカ先輩は軽やかに立ち上がると俺のほうに手を差し出す。
「立って。通りがかったのが私でよかったわね」
「・・・ありがとうございます」
されるがままに俺は彼女の手を取る。たくましい。
蚊たちがいなくなったのは先輩のおかげ・・・なわけないよね。
リカ先輩は俺から少し目をそらすと呟いた。
「これからさっきの寝言のことを詳しく教えてもらうんだから」
「・・・勘弁してください」
やっぱり、俺には良くはない現実が待ち受けているのだった。
まあ良くはないだけで悪いとも言ってないので。
完
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