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目の前で起こっている事象が非現実的であるのはともかく置いておいて、漫画の登場人物であるところのこのアメリカンズタボロは、
その脇役の……っていうか小道具の代表として、僕の表現の稚拙さを叱ってくれているのだということ、それだけはなんとか理解できた。そして、自らを未熟者と認める僕は、それを素直に受け止めようという気概も持ち合わせているつもりでいる。
だが、このアメリカンズタボロ、僕がこれまで全く頭にもいれていなかった『死に役のリアリティー』という想像もつかなかった素材を、『死に役』代表として漫画の世界から、怒濤のように撃ち出して責めてくるのである。
いかんとも頭が追い付かない。理解に脳がついていかない。
ゆえに、それがおっついてくるまで僕には黙っているしか選択肢がなかったのだが。
なんとかその場繋ぎで返事しようとして、でも言葉が出てこなかったために口をバクつかせる他に何もできなかったこの態度が、
叱責のさなかにあるアメリカンズタボロショートヘアには、『これだけ言っても何一つ理解しない阿呆』という印象を与えてしまったらしい。
これがまずかった。
一つため息をついたアメリカンズタボロは「言ってわかんねぇなら体験してもらうしかねぇな」と呟くと、
「ま、こっち来いや」と腕を差し出して来て。
それが絵の中だけの出来事であれば僕は相変わらずGペン握りしめたまま口をフナみたいにパクパクさせることもできたのだろうが、
世界中のすべての摂理を無視して猫の腕が画用紙から飛び出して来てしまっては、
不思議の世界に迷いこんだアリスのごとく、その展開に翻弄される他なかった。
僕は確かに、僕の書いた漫画の中に引きずり込まれてしまったのだ。
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